「ランウェイ☆ビート」

先日、「塔の上のラプンツェル」なんていうエンターテイメントの傑作を観てしまってますからね、当然日本のエンターテイメント作品も観ておかねばなるまいと思いまして新宿ピカデリーで観てきましたよ。

【あらすじ】シネマトゥデイより引用

転校生の“ビート”こと溝呂木美糸(瀬戸康史)は、転入早々“ワンダ“こと犬田悟(田中圭)へのイジメに出くわす。落ち込むワンダをクラス一のカッコイイ男にすると宣言したビートは、ワンダを別人のように大変身させる。ビートの天才的なファッションセンスに驚いたクラスメートたちは、文化祭のファッションショーに取り組むことになるが……。

以下、感想でございます...。






実はボクはファッションを取り上げた作品ってのが結構好きなんですよ。映画から発信されたファッションならともかく、流行のファッションを取り上げた作品は、完成した時点からみるみる古くなっていくという運命にあり、ボクはその儚さが好きなんです。いや、正確に言えばすぐにダサくなる運命にある作品を未来人目線でニヤニヤするってのが好きって事です。


で、この作品ですが、残念ながら正直あまり面白くはなかったね...。まあ、大方の映画好きの皆さんの予想通りですよ。ここからはなんであんまり良くなかったかというのを考えていきますよ。


そもそも映画界におしゃれな作品を作れる人って本当に極少数だと思うんだよね。基本的にあそこって芸術の世界というよりも肉体労働の世界だからね。企画の段階は別にしても、少なくとも映画の現場は「フルメタル・ジャケット」の世界を想像してもらえるとわかりやすいです。そんなところで「おしゃれ感」なんて描ける訳が無いんですよ。多分、現場の人間で「ファッションショー」を実際に見に行ってる人が少ないんじゃないかと思いました。


キモである登場人物たちのファッションについては、まあ良いですよ。その点はあまりボクも詳しくないんで、ああいうファッションが今一番おしゃれってことなんでしょう。この映画を観て登場人物たちのファッションをマネしたくなるっていうお客さんもいると思うので特に文句はありません。むしろさっき書いたように「何年か経った後に観てニヤニヤする」っていうボクの楽しみ方としては100点満点です!


こういうファッションよりも、「ベイエリアの高級マンション」とか「中途半端なFM公開放送」とか「手作りのランウェイ」といった設定と、その描き方に「おしゃれ感」が無いってのが問題です。金持ちの住む家が「ベイエリア」とかダサイんだよ。もう他の設定を考えた方が良いと思う。なんか端的に言って「こだわりが無い」んだよね。IMALUの使ってるヘッドホンが、観た人ならすぐわかるっていうくらいのプロ仕様であればまだ良かったものの、明らかに「デザインがかわいらしい」っていうだけで選んだみたいなヘッドホンだったところに、この映画の「こだわりの無さ」が出ていました。


でも、こういった点なんかまだ可愛らしいもんで、一番問題なのは結局のところ「脚本」なんだよなあ...。
この脚本家いた方は多分そうとう「優しい方」なんだと思うよ。人としてだったら素晴らしいけど脚本家としてだったら致命的だと思う。


あらゆる場面で盛り上がらないんですよ。
主人公のビートには結構連続してピンチが起こります。このピンチはなかなか面白いものばかり。でもこの作品で起きるあらゆるピンチは全部なんとなく解決してしまいます。一事が万事、都合が良い。ぼんやりと挫折、なんとなく解決の繰り返し。だからあんまりドキドキしないんだよね。ピンチのアイデアは面白いものが結構あるのにねえ、「ブログが荒れた!」とかね。画面上ではそんなに荒れてるように見えないしね。特に「主人公は実は盗作しているかも」っていう疑惑はやりようによっちゃ相当面白くなるピンチなんだけどね。スゴいもったいないです。


これって何となく「ラスト」を重視するあまりっていう結果だと思うんですよ。ラストの「ファッションショー」で思いっきり泣かせてやろうっていう魂胆が見え見え。だったらもっと物語の手前から「仕掛け」をいっぱい用意しておけば良いのにとにかく雑、というかなんか慌ててる感じがしました。だからぼんやり解決させちゃってるのかもね。ビートの父親に対する反抗と、ビート自身も父親と同じ道、同じ選択をせざるを得なくなってしまうというこの映画のストーリー上のキモの部分も、慌てて回収しようとするからなんだかぼんやり...っていうか、男としてそういう事していいの?という選択をしてしまっています。ビートって奴は罪な男だよ!
あと台詞が酷いんですよ。ストーリーの流れ上、説明しておかないといけない部分の台詞が無く、観客に「そう思って欲しい」という内容を台詞として登場人物たちが言っちゃってるってのが最大の問題です。オリジナルの洋服を着たみんなが表参道や原宿を闊歩するシーンで、吉瀬美智子が「洋服が輝いてる...!」「洋服が生きているみたい!」って言っちゃうのよ。そういうのはスクリーンを観て観客であるこっちが思う事であって、作品から台詞を使って言っちゃいかんよ!


なんか全体的に考えてみると、大人が子どもに向けて「大人が考える『理想の青春時代とはこういうものだ!』」っていう話に見えたよ。「青春」が押し付けがましいんですよ。ホントの青春ってもっとドロドロしてたり勘違いしてたりしてるようなもんだと思うんだけどね。あまりに理想的過ぎて「青春のプロパガンダ映画」のようでした。ビートという傾奇者が日常を変えていくヒーローものとしてみてもベタです。つか「いじめられっ子が洋服変えただけでクラスの人気者になる」なんてのはもうおとぎ話だよね。成立させるのも難しい。新しい形で見せる必要がある素材だと思います。そのままやってどうする。


ただ、この映画はある一点においてだけはっきりと「おススメです!」と言わざるを得ません。


桜庭ななみの演技が素晴らしいです!特にビートに対しての告白は「いまこの年齢の時の桜庭ななみをフィルムに記録する」という点でかなり良い仕事をしています。明らかに負け戦である「告白」を、負けとはわかっていてもやるっていう設定は感動ものです!コレだけを目当てに見に行くのであれば「是非!」と断言できますよ。というか、この点だけはスクリーンで見ておくのもいいかもね。



【おまけ】
さて、ボクの本棚には数年前にダイソーで買った100円コミックが何点かあります。特に80年代当時の最先端ファッションを取り扱った「こっとん鉄丸」という作品が未来人のボクの心をつかんで離しません。今読んだらマジで面白いんですよ!半笑いですよ!
この作品の詳しい解説は謎のマンガを多く解説している「a Black Leaf」さんのコチラをご参照ください。「ランウェイ☆ビート」観てる時、ずっとこのマンガを思い出してました。


パラグアイ在住のGianninaさんは古着で新しい洋服を作る動画をYOUTUBEに上げています。
今回のお題は「オリジナルビキニを作る」。




※本文から漏れた感想

  • 他の俳優陣がちと弱いので、桜庭ななみにその分の比重が行くのはしょうがないよね。
  • ラプンツェルがはじめて外に出た喜びみたいなシーンが無い。ビートがホントに洋服作りが好きなんだっていう多幸感溢れるシーンがね。
  • 一番盛り上がりが必要なクライマックスのファッションショーのシーンは観客の歓声を抑えてしまっているので迫力に欠けてしまってました。
  • 商店街の連中をファッションショーの裏方として使えばよりグッとさせる事も出来ただろうに...。
  • ポテンシャルポテンシャル言いやがって...!
  • 「楽しもうぜ!」っていう台詞は楽しんでる人は言わない。
  • つみきみほさん、お久しぶりです!