「DOCUMENTARY OF AKB48 NO FLOWER WITHOUT RAIN 少女たちは涙の後に何を見る?」

AKB48のドキュメンタリーも、もう3年目なんですね。毎年、出来が良くなってきているシリーズなので今年はどんな感じになっているだろうと思いまして観てきました。平日の夕方ともあって男子高校生多し。高校野球の抽選会くらい色んな制服の男どもが観に来ていましたよ。

【あらすじ】※シネマトゥデイより引用

2012年はAKB48にとってエポックな1年となった。現在は数少なくなった1期生として初期からグループを支え、センターに立ち続けた前田敦子が脱退を宣言したことから、総選挙は誰がトップを奪うのか大きな注目を浴びる。そして初の東京ドーム公演と前田の卒業公演が続き、また恋愛禁止条例なども話題になった。さらには、東京ドーム公演にてAKB48が組閣するという発表もされ……。

【予告編】

ご参考までに、過去2作の感想をこちらに。

なんかAKB48についてはこの2つの感想で全部言い切ってる気もする...。


上映前の劇場は、なにか異様な殺気を感じました。上映が始まってから入ってきたカップルが「邪魔だよ!」って本気で怒られてたし。ま、確かに邪魔だけど普段の映画館では見ない光景。そんなこんなで以下、感想です。





結論から先に書くと、今までのAKB48のドキュメンタリーで一番良かったと思いました。


1作目はタルいし、2作目はエグい様に見えてそりゃタダの運営側の怠慢じゃねえか!と思ったり、振り幅が毎年極端なシリーズとなっていましたが、今回は過去2作の欠点をピンポイントで補正してきたように感じました。そもそもこの映画くらいしかAKB48と向かい合う機会が無い訳でしたから、ライブなんかも改めて見るとやっぱりスゴいんですよ。デカいハコで超満員の観客を目の前にしてパフォーマンスを繰り広げる。やっぱりこういう迫力ある映像は映画が映えますね。
過去2作でワタシ自身が感じていたストレス(元メンバーの意見とか聞いたら?とか、ここの運営はどうなっとるんじゃい!とか、誰かお医者様を呼んでください!とか)が、解り易いカットの挿入でクリアされていました。例えばAKB48内だけで言うところの)不祥事で辞めちゃった女の子にインタビューをしていたりとか、AKB48内だけで言うところの)不祥事で辞めざるを得なかった女の子の最後のファンへの挨拶を聞いて涙するスタッフのおじさんを狙って映したカットがあるとか、健康診断を受けるAKB48のメンバーたちとか。ただ、それがもう「はい、うちはちゃんとしてますから!」って言いたいが為のカットに見えちゃって悪い意味で面白かったです。


今作のテーマは2本立てで、まず一つは「AKB48の『センター』とは?」という事。
舞台の中心に立つ「センター」。それがどれだけ華やかで、且つものスゴい重圧がかかるポジションか、と云う事がメンバー達のインタビューで浮き彫りになっていきます。で、この「センター」を長年努めて来た前田敦子さんの卒業が一つのクライマックスとなっていました。今作のあっちゃんは、やはり環境ってのが人を変えるんでしょうねえ。なんかもう神々しかったですよ。去年は観ているだけで心配になるほどヘロヘロでしたが、今作では他のメンバーと一線を画すぐらいの華やかさがありました。とんでもない能力を持った人がコミュニティから抜ける、って話ですから「桐島、部活やめるってよ」がお好きな方は多分この映画も楽しめるんじゃないでしょうか。あっちゃんが卒業する東京ドーム公演のシーンでは、静まり返った劇場内からすんすんと男どもがすすり泣く声が聞こえてきましたよ。すんすんすんすん。この「センター」について、樋口真嗣監督が登場して解説してくれるんですが、この解説が今までに無い新しい角度からの解説となっていて、「センター」とは?という問いに対して素晴らしい回答となっていました。こういう外部の人からのAKB48に対する意見ってのも今作が初めてだったので新鮮。


素晴らしいと言えば、スケベ者として今回良かった点がありまして。今回の総選挙のシーン。ナレーションも説明も全くないけど、研究生の光宗薫さんを追っているカットが何回かあるんですよ。発表前は舞台裏で他のメンバーとはしゃいだりしていたんですが、いざ発表になると選抜されず、失意の中、退場。お客さんの視界から消えるか消えないかのところで光宗さんは気絶してしまいます。カメラの前でバタッと倒れるんですが、このカメラ、仕事を良く解っていて介抱せずにずっとその倒れた光宗さんの姿を撮り続けるんですよ。この作り手の「人でなし」感が観たかったんですよ。半分は批判してるんだけど、半分は褒めてます。やはりある程度「人でなし」じゃないとドキュメンタリーって面白いものが撮れないと思ってるんですよ。今回はこの作り手の「覚悟」が思わぬところで見る事が出来たので良かったです。


今作のもう一つのテーマ「AKB48と恋愛禁止」という点についても書いておかなければなりません。
もうたぶん皆さんご存知の通り「AKB48は恋愛禁止」という鉄の掟があるんですよね。この鉄の掟、鉄の割にやたら破られています。作り手側もたぶんホントは「センターとは?」というテーマだけでドキュメンタリーを撮りたかったんだと思うんですよ。でもあまりにもこっちの話題が多過ぎて描かざるを得ない。そんな雰囲気を感じました。メンバーとの個別握手会の折にAKB48内だけで言うところの)不祥事を起こしたメンバーがファンに向かって挨拶をするんですが、このシーン、魔女狩りのような処刑台のような、ものスゴく嫌な雰囲気が漂っちゃうんですよ。号泣しながら「申し訳ありませんでした!」って。で、それを舞台裏で観ているメンバーたちがいて。中にはスキャンダルが載った週刊誌の発売日前日に「ご迷惑をかけたので辞めます。」とか決断しちゃう子がいたりして。
この姿すら残しておいて映画にするっていう商魂の逞しさには「いよっ!女衒!」(意味は各自で調べよう)とかけ声をかけたくもなりますが、一応、見せられる部分は見せているという点に於いて、逆にファンには誠実なのかもしれないなあ...と思ったり。


前作のドキュメンタリーがAKB48のとんでもなくエグい部分を描いていて(正確には運営側の拙さだけど)、表現できる臨界ギリギリまで見せたなあとも思いましたが、実は今作の方がAKB48の映画の臨界点だったと思うんですよ。


今作は「AKB48と恋愛禁止」というテーマを取り上げておきながら、「AKB48って恋愛禁止なんですよ〜。」以上の事には全く踏み込めていません。もちろんこのルールに翻弄されているメンバーやスタッフの姿はものスゴく丁寧に描かれていましたよ。でも本当に観たいモノ、知りたい事って言うのは「なんで恋愛禁止なの?」っていう事と「恋愛したらこんなにヒドい目に遭うのになんで恋愛しちゃうの?」っていう、出演者皆さんの根本的な気持ちですよ。
AKB48が恋愛禁止なんてこたあ、充分知ってますよ。先日もYOUTUBE使って世間を賑わしてたじゃないですか。あのショッキングな丸坊主の映像を否が応でも見せつけられて、「なんなのコレ!?」と不快感まじりで思った疑問の先が映画の中には当然無い。映画がもう実際に起こった事に追いついてないんですよ。たしか丸坊主の映像が流れた時って映画公開の直前だった筈。丸坊主の映像のおかげで、この映画が壮大なネタ振りになっちゃってんですよね。峰岸さんはこの映画の中で処刑台に昇る仲間を見て涙してるんですよ。そんな姿を観ときながら何でこんな事になってんだ?
「アイドルは恋愛禁止!」っていうルールを作っちゃった人(空気?)と、「ルールがあるにも関わらず恋愛せずにはいられなくなった女の子の気持ち」が描かれていて初めて「すげえドキュメンタリーだ!」と思うんですけどね、少なくともワタシは。


でもまあ、こういうのってファンの皆さんは観たくもないかもしれない。ファンとアイドルと運営側、三方の落とし所のバランスが極めて良い状態だったので今作が今までで一番良かったし、ある意味「臨界点」を迎えた映画だと思いました。残念ながら恐らくこのシリーズがもうこれ以上進化するって事はないでしょう。他にやりようが無いし、これ以上進めない。純化した、というか、より「ファンの為に捧げる心地良いPR映画」になりました。おかげで最初は殺気立っていた劇場内もなんだか多幸感に溢れていたようですもの。ただ、劇場出たら現実が待ってるからねえ...。
今回の丸坊主の件で、なんかハッキリとAKB48に対する潮目が変わった気がするんですよ。当たり前の話、AKB48のファンよりもAKB48に興味ない人の方が大多数な訳ですから。そんな人たちにもあんなショッキングな映像が届いちゃってるってのは本当によろしくない。今後、AKB48が何を仕掛けてもしらける気がします。でも来年の映画もこんな感じの「ファンの為に捧げる心地良いPR映画」になるでしょう。「終わらない文化祭」なんて一昨年の感想で引用させてもらったけど、祭りってやっぱ終わるんだね。


「恋愛禁止」っていう毒はメンバー追放どころの騒ぎではなく、AKB48そのものにもジワリジワリと効いてくる。去年、指原さんが涙ながらに釈明していたラジオ。やっぱりドキュメンタリーのカメラが入ってて今作でも使われてました。もし先日、峰岸さんが丸坊主にして謝罪する動画を撮影してるところにもドキュメンタリーのカメラが入っていたら...。



ゾッとするね。








【おまけ】
今作で一番ひっくり返ったのがドーム公演の時にあっちゃんが歌ってた曲。「アイドルだって恋をする〜♪」だってさ。もう言ってる事とやってる事がムチャクチャだよ。

でもこの歌の「アイドルだって恋をする〜♪」って部分がこの映画に使われてるって事から、かろうじてこの作品の監督の本音のメッセージを感じました。


あと、どうでもいい事ですが「UZA」って曲、男性のバックダンサーがいらっしゃいました。
で、その後ろにAKB48のメンバーがいるの。バックダンサーって何かね...。






※本編から漏れた感想

  • AKB48の1年分の情報を一気に取り込むと、思いのほか、ぐったり。
  • イナバ物置のCMは、早過ぎたAKB48システムだったのか。
  • AKB48とかSKE48とかNMB48とか、フルメンバー揃ってのかけ声は圧倒的。武器持たせたらそのまま軍隊になれそう。AKB48小隊とか。
  • ネットの中傷画面は完全に作り物。本物出すべきじゃない?
  • 峰岸さんがスクリーンに映るだけで客席から乾いた笑いが。

次回、この作品で感じたモヤモヤが無いアイドルのドキュメンタリーの感想書きます。