「フラッシュバックメモリーズ 3D」

思えば。ボクが学生時代だった90年代頃は、ドキュメンタリー映画なんてポレポレ東中野アップリンクユーロスペースみたいな、所謂「ミニシアター」でしか上映されて無かったんですよ。ドキュメンタリー映画の地位が上がったんだか、映画のジャンルの底が抜けたんだか、どう表現していいのかワカリマセンが、近年シネコンでもドキュメンタリーが観る事が出来てスケベ者には良い時代になりました。今回はミニシアター(というかインディーズ)から飛び出した雄、松江哲明監督の新作の感想です。

【あらすじ】※シネマトゥデイより引用

ディジュリドゥアーティストや画家の肩書を持ち、国内外で精力的な活動を続けてきたGOMA。活動10周年を迎えるにあたり、記念として映像制作を行ってきた最中の2009年11月、首都高速で追突事故に遭ってしまう。事故後、記憶力に問題があることが発覚。高次脳機能障害が後遺し、軽度外傷性脳挫傷と診断される。GOMAは自分が演奏していたディジュリドゥが楽器であることも覚えていなかったが、リハビリに励み、復帰に向けて少しずつ動き出す。

【予告編】


以下、感想です。







端的に言って非常に「酷な映画」だなあ、と。

そりゃそうですよ!踊りたくなるのに映画館には座席があるから座ってないといけないというジレンマに陥ってしまうのです。冒頭から映画館がライブハウスへ。この音楽を聴きながら「コレを座って観ていていいのか?」という気分にさせてくれます。ボクは今作を横浜ブルク13新宿バルト9で観たのですが、どちらも音の環境が素晴らしかったので全身を音楽に包まれてしまいました。今回の松江監督の餌食被写体であるGOMAさんのディジュリドゥの演奏がド迫力で、踊らずにはいられない。でもコレ映画だし...。とは言え、座席がもう邪魔でしょうがない!なんだかしれっと座ってみてるこっちが間違ってる気がする。映画がライブに肉薄する。松江監督は下手したら映画そのものを破壊しようとしてるのではないか?とも思ってしまいました。


とかく今作は「3D」と云うものが画期的という評価を受けてると思うんですよ。確かにドキュメンタリーで3Dってねえ...。しかしながら観れば「なぜ今作が3Dで作られたか」なんて一目瞭然。GOMAさんは記憶を失うという大変な事故に遭われて、記憶を大部分失っている訳ですよ。この映画を撮った事すらあんまり覚えていない。ワタシはこの映画を観るまで気付きませんでしたが、「記憶」って「時間の概念」がベースにあるんですよね。つまり「記憶が無くなる」=「時間の概念が無くなる」と云う事で。松江監督はこの「時間の概念」を「3D」という最新の映画技法を用いて表現しているのです。これが非常に解り易い。画面の一番奥がGOMAさんの過去。手前でメンバーと一緒に演奏しているGOMAさんが今作を撮った時点での現在。言わばスクリーンにレイヤーをかけた状態。このアイデアの何が優れているか?って、レイヤーの一番手前に来るものがワタシたち「観客」である、と云う事ですよ。「観客」を前にして初めてこのレイヤーが完成する。なぜなら観ている我々は映画そのものにとって「未来」の存在だから。このように「過去」「現在」、そして「未来」が劇場内で一体化するというこのアイデアは、数多ある「3D」映画に於いて、全く別の、新しい概念の技法が発明されたと云う事に他ありません。


また、とかく今作は「3Dとドキュメンタリー」という珍しい技法の点ばかりクローズアップされますが、実はもう一つ実験されている部分があって、それは「アニメとドキュメンタリー」という点。今作では主にGOMAさんが事故に遭われた日のシークエンスでアニメが使われていますが、この使い方が見事です。そもそもアニメとドキュメンタリーなんて相性悪いように見えますが、世界を見てみれば実は相性がものスゴく良いんですよね。「気付いているクリエイターは既にやってるぞ」ってなもんで。この技法を上手く使っている邦画としてはトップクラスに早いのではないでしょうか。まあ、特に事故〜臨死体験のシーンなんて、リアルに描いてもねえ...。アニメを使う事で「現実ではない、どこか全く違う世界」と云うのが上手く表現されていたと思います。


あと、やっぱり「人間て不思議!」って事が否が応でも見せつけられますよ。なんでGOMAさんが事故に遭わなければいけないんだ?とか、記憶が無くなるって...とか、記憶が無くなってるのにディジュリドゥを吹いて演奏してみると身体が覚えていたり...とか。今作はGOMAさんが24歳でオーストラリアに渡るシーンからスタートしますが、ホントなんでこんな事に?という疑問、怒り、哀しみなど、観客の色々な感情を揺り動かされてしまいます。もちろんこの作品を作るにあたってGOMAさんも相当の覚悟があった事でしょう。己の全てを曝け出さないと良い作品に仕上がらない。特に監督は常に被写体と真剣勝負を仕掛けるツワモノ。果たして素晴らしい作品が出来上がったと思います。この映画に関わっている人たちのエネルギーがしっかりと映像に映っている。その熱意、覚悟が充分に伝わっただけでも満足です。


前述の通り今作を二回観ている訳で、最初観た時はアニメパートがあるGOMAさんの交通事故のシーンにすっかりやられてしまった訳ですが、2回目をちゃんと観てみると、グッとくる場面が事故シーンよりも次の「I belived the future」の件だったんですよ。
演奏をしているシーンに於いて、映画冒頭からそれまで薄目を開いて演奏をしていたGOMAさんがこの「I belived the future」からハッキリとこちら側、観客の方を観て演奏をしてるんですよ
なるほどこの映画は、映画でありつつGOMAさんの記憶をきちんと形として保存した「記憶」=「メモリーズ」だったんだと云う事をココで気付かされる訳です。


GOMAさんのカメラ目線は、未来にこの映画を観るGOMAさんに向けたメッセージ。


この時点でもドキッとしてしまったのですが一番感動してしまったのは最後の最後、メンバー紹介の後にスクリーンいっぱいに出るテロップこの映画そのものがこの映画について自己言及している。映画のタイムカプセル化。そして、このテロップで「ああ、ボクはライブでは無くて【映画】を観ていたんだ」と思い知らされたのです。そしてそのテロップは松江監督のGOMAさんに対する優しさであり...。最後に何が出るかは是非劇場で確認して頂きたい。


エピソード自体で考えればフジテレビ系の「ザ・ノンフィクション」みたいな作りが出来ると思います。しかしながら今作は、あらゆる映画技法が上手い事機能している素晴らしい「映画」だったと思います。3Dで観るに越した事ないけど、選り好みして結局観ないなんてもったいない事するくらいなら2Dでも問題ないと思います。3Dだろうが2Dだろうが伝わる思いはきっと同じ。残念ながらもう終わっちゃいますが、観る機会が出来たなら是非!のオススメ映画です。



【おまけ】
GOMAさんの事故後、初の復活ライブ!
譜面台にある紙にグッとくる!
http://www.youtube.com/watch?v=0Wp8rGtb_cY&t=2m50s


※本文から漏れた感想

  • いつもの映画館と違った客層に感じた。お子さん連れの方とか居たし。
  • 3Dでやるディゾルブってたぶん初めて観た。
  • 予告編の編集もスゴく良かったと思う。アレ観て本編観たくなった。
  • 恐らく過去を表現した後ろの映像の方が数倍時間がかかっていそう。あと、GOMAさんがご自身の過去の映像を大量に持っていたから成立した映画でもあるなあ、と。
  • GOMAさんの音楽は中毒性があってヤバい。生にも死にも直結してしまう楽曲ってのもヤバい。魂を持って行かれそうになる。
  • うちの甥っ子(5歳)にGOMAさんの楽曲聴かせたら「なにこれおならみたい!」と言いつつもすげえ踊ってからやっぱりヤバい。