「あるいは佐々木ユキ」

中央自動車道を都心から八王子方面へ。調布基地を追い越して、右に見える競馬場。左はビール工場。更にちょっと行くと、高速道路上の空を横断して可愛らしいモノレールが走っています。今回はそのモノレールも重要な役割で出てくる謎の映画「あるいは佐々木ユキ」の感想です。
【あらすじ】※シネマトゥデイより引用

中華料理店、花屋のバイトや探偵のアシスタントをしながら、東京の郊外に暮らしている20歳の佐々木ユキ(小原早織)。詩人・文月悠光の朗読を聞いたのをきっかけに、彼女は自分の過去を振り返り、現在の気持ちを見つめるように。やがて、何を求めて生きているのかわからなくなりそうになる。そんなある日、アパートの帰宅したユキはもう一人の自分である佐々木ユキb(川野真樹子)と遭遇。何となく正月を一緒に過ごすことになるが、ふとしたことけんかをしてしまい…。

【予告編】

以下、感想です。







なんといっても全篇に渡って澄み渡る綺麗な空気が心地良いです。空気も映像化出来るもんなんですね。冬の晴れた日の朝のようなキリッとした空気が伝わってきました。舞台は立川という事で前述のモノレールが出てくるんですが、多摩地区のモノレールってのは中央高速の上空を横切るくらい、普通の電車やモノレールよりも高い位置で運行されてんですよね。しかも「電線等、車窓を遮るものが無い」とか、「揺れが少ない」とか、色んな要素が客観的な目線を生み出しているというか、まさに「妖精の視線」なんですよ。ふわっとした感じで上空から街を覗く。どこかここには居ないような雰囲気の不思議なキャラクター、佐々木ユキが乗る乗り物にピッタリだったと思います。


映像は見事に「冬の空気」を表現していましたが、他方、佐々木ユキを巡る「詩」の数々はどうか。


詩については馴染みがないもんでよくわかりませんが、パッと思い浮かんだのが立川談志の「イリュージョン」という考えでした。言葉は脈々と作品に残っているのに、どこかそれぞれが微妙に噛み合っているような噛み合っていないような。訳のワカラナイ言葉の羅列が続きます。ナンダカワカンナイ。(すいません、ボクにはそう感じました。)しかし、この言葉の羅列が絶妙に可笑しいんですよ。「変」って意味じゃなくて「面白い!」という意味で。現実とはかけ離れまくっている言葉たちを独特の手法で繋ぎあわせていく。この繋ぎ方に面白さを感じる訳です。
ちょっと具体的には説明が難しい、と言うのがこの映画の魅力。実際、この感想を書くのに3日以上かかっているんです。ドコがどう面白かったのか、言葉にするのが大変。でも「満足!」だった事には間違いない訳で。ワタシの拙い言葉を振り絞って言えば、「『日常』の中に未知なる世界を見出す事は可能なのか?」という事に果敢に挑戦していた作品だったと思います。とかく映像と云うものは新しい「現実」を発見できるシロモノですからね。観客の触覚を刺激する作品だと思いました。


ただし、ワタシ自身、今の時点でこういう映画を求めてないのでそんなには刺さらなかったと言うのが本音です。今作が2011年の冬、あの日の前に撮影された事もあるせいなのか、やっぱりどうしても「震災前」の世界観/価値観を思わせるんですよ。あの地獄みたいな地震津波の映像を観た上だと、今作には「あー、震災前ってそういやこんな感じだったなあ...。」といったノスタルジーを感じてしまいました。画と詩のコラージュもそれぞれ美しいので良いんですが、今のワタシの余裕の無い心で観ると「ずいぶんと呑気な話」に映ってしまったのも残念なポイント。画の美しさに言葉が邪魔だし、言葉の威力に画が弱い。コラージュじゃなくてそれぞれ別々だったら楽しめたかも。


しかしながら今の自分にハマらなかっただけで、また違うタイミングで観たら評価はもっとガラリと変わると思います。むしろ「今後の自分に必要になる」作品となる気もスゴくしているんですよ。それと同じでこの映画は、誰かには「傑作だ!」と言わしめるクオリティの作品には間違いありません。ふっと空いた心の隙間にぴったりとハマる良い作品だと思います。観て損はありません。ポレポレ東中野では今週末までやっているみたいですからご覧になる方はお早めに!




【おまけ】
立川談志の【イリュージョン】と云えば「松曵き」と「談志 円鏡の歌謡合戦」。




※本編から漏れた感想
-2人カルタは、もはや作業!