「シン・ゴジラ」

ここ数年。映画を劇場で観る事が出来なくなり、また、感想なんかも書くことがなかったですけど、「シン・ゴジラ」に関しては時間作ってちゃんと観たし、思うところもあったので久々に感想書きます。


今を去ること17年前、ワタシ実は「ゴジラ×メガギラス G消滅作戦」という映画のスタッフをやっておりまして。それはもう全力で楽しく仕事させて頂いた訳ですが、この作品、いかんせん色々と不幸が重なった映画でした。あまりにSF(というかもはやファンタジー)要素が強すぎて、自衛隊の協力が全く得られなかった、とか、お台場をクライマックスの場所としているのに、当時新社屋に移って間もないフジテレビが「うちの社屋をゴジラが壊すのはまかりならん!」と言って相手にしてもらえなかった、とか。「ゴジラ映画」なのにゴジラ映画」としてヒジョーに大事な要素を欠いた状態での製作だった訳です。(結果、この映画ではなんだかかよくわからん「機関」がゴジラと戦い、フジテレビの真横にある「フジテレビっぽい建物」をゴジラが壊す、という事で凌いでおります。)また、製作中には子供達を撮影所に招き「見学ツアー&ゴジラショー」なんかもやったりしていました。当時若かったワタシはつくづく「ああ、我々は子供達に向けた映画を作ってるんだなあ」と感じた瞬間でもありました。



で、「シン・ゴジラ」ですよ。


とても面白かったです!


ワタシが17年前に「ムムム」と思ったわだかまりを全てクリアしてくれた作品でした。まず、本当に大前提としてやっぱり「自衛隊が出てこないとね…」って話ですよ。 「ゴジラ」と「ゴジラの倒し方」以上のファンタジー要素を取り除いて極力「リアル」に寄せていたのが良かったです。延々と会議、会議、会議。子供の観客層、完全無視ね。「ゴジラ」という作品は、子供達のヒーローだったからこそ興行収入が上がっていた時代もあった訳で、夏休み公開なのによくまあこの脚本で東宝がGOサイン出し たもんだ、と驚きました。


冒頭のクレジットから、いざ「ゴジラ」が登場するまでの編集のテンポの良さたるや!テンポの良さと併せてスルスルと流れていく心地良い日本語の「メロディ」。これがエンディングまでダレ場もなく一気に観せてくれるんですから、これはもうアーティスト「ゴジラ」による2時間のライブ!と言っても過言ではありません。


この映画。徹底的に現実に即した「ウソ」というのが、手品とかペテンが大好物な私にとって「最高!」と言わざるをえない作品です。例えば、ゴジラ上陸を報道する映像。アレって今我々が散々見ているテレビのニュース映像と全く一緒なんですよ。日テレなら日テレのフォーマットで、テレ朝ならテレ朝のフォーマットで。「毎朝新聞」とか「テレビジャパン」みたいな架空のメディアがない。だから信じられるですよね。冒頭の、呑川が逆流して大量の船がバキバキと音を立てて壊れていく様は3.11の時に恐怖を感じた映像そのままだし。どこかで見たことあるような画が映っている。でもそれは自分の人生で映画で見たのか、アニメで見たのか、現実で見たのかわからない。脳みそが混乱する。怖くて幸せな映像体験を味わえました。


個人的に好きなのは物語を引っ張った矢口蘭堂というキャラクターです。先頭に立ってゴジラと対峙し、ゴジラシリーズの中でも頼り甲斐のある主人公でしたが、アイツはあの危機的状況に於いても恐らく自分の考えの3割くらいは「政治家としての自分の未来」を見ていたようにしかみえんのです。
生粋の政治家よ!2世議員だし!その態度、すごく素晴らしい!
シン・ゴジラ」観て一番最初に思い出したのは立川談志の「鼠穴」という噺です。ざっくり言うと弟が金借りにきたけどしょぼい金額を渡した兄。数年後、金を返しにきた弟に「お前の為を思ってわざと少ない金を渡したんだ。」みたいなことを言うんですよ。浪花節みたいなイイ話。でも談志の解釈は「兄貴はただケチっただけ。」との事。矢口蘭堂も、すごく国を守る為に死力を尽くして戦ったけど本心はどうだか…。打算も人間の本質です。この作品は「人間の本質」がよく描かれていたように見えました。何考えているかわからない妖しい魅力の長谷川博己をキャスティングされていたのも大正解だと思います。



と、いろいろ書いてきましたがね。

この作品はシネフィル、映画クラスタ、映画マニア、等々、ワタシを含む悪しき映画好き達が観終わった後に良し悪しをゴニョゴニョ言うような作品ではないのです。もはやその狭い枠には収まらない、というか。
先日、とある縁で飲み会に参加しました。メンバーは生物学者、科学者、経済学者、自衛隊員といった、とんでもない面子。その人たちが口々に「シン・ゴジラ面白い!」と。それだけではなく、ゴジラ細胞の構造についてやヤシオリ作戦の経済的損失、自衛隊員から見た今回の作戦とかを熱く語るんですよ。その人たちの話がムチャクチャ面白い!ゴジラありきで真面目に語り合いました。誰もがあらゆる角度でいろんな話ができる映画。そんな映画ここ最近で聴いたことがありません。
何か違ったメディアで生まれた作品の映像化というわけでも無く、映画が産んだキャラクターの復活。
観客に一切媚びずに、自分たちが作りたいものを作る精神。
これを見ろ!という圧倒的自信。
そして観終わった多くの人に「自分も語りたい!」と思わせてくれる映画。
シン・ゴジラ」は日本映画の希望であり、21世紀の新しい指針だと思います。

シン・ゴジラ」本当に良かった!


おまけ
WatchMojo.com によるTop 10 Godzilla Villains.

ワタシだったらゴジラの敵キャラ一位は沢口靖子a.k.a.ビオランテ)だな。


本文から漏れた感想

  • IMAXの3列目から観たからホントにゴジラを見上げるような映像体験になりました。
  • 蒲田を散らかしたあのゴジラのビジュアル。マジでヤバいやつきた!と思いましたよね、やっぱり。
  • ワタシの地元である川崎市ゴジラの第一防衛ラインになってるのもプラス評価!ワハハ!丸子橋!
  • 石原さとみの「あの感じ」は東宝映画の味!X星人みたいなやつ。
  • ゴジラ×メガギラス」は、「キングコングvsゴジラ」が好きだとおっしゃってた手塚昌明監督だけあって、怪獣対怪獣の肉弾戦が素晴らしい作品となっておりますよ。