「ダークシステム 完全版」

たしかこの作品の予告を観たのは去年の「童貞。をプロデュース」上映の前だったと記憶しています。なんだか血圧高めのテンションに圧倒されたのと、9月の時点で「NEXT SPRING」と表示された予告に「ずいぶん先だなっ!」と心の中で突っ込んだもんです。ただ、なんとなくその時「これは観に行かねばならないだろうなあ...」と感じました。映画に強引に呼ばれた感覚がしたというか。今回は今まで不定期で紹介してきた「謎の映画」シリーズの中でもトップクラスに「謎」な映画、「ダークシステム」の感想です。


【あらすじ】※シネマトゥデイより引用

加賀見(宅野誠起)が思いを寄せるユリ(鎌田優子)が、友人の西園寺(古谷克実)と交際することに。しかし、西園寺の異常性が明らかになり、加賀見は西園寺と決闘することを決意。そして数年後、ユリと結婚を意識し始めるようになっていた加賀見の前に、ユリのストーカー、ファントム(上馬場健弘)が10年ぶりに現われユリを奪ってしまう。加賀見はユリを奪い返すべく、ファントムに立ち向かう。

【予告編】


以下、感想です。








スゴく面白かったです!
スゴく好きな作品です!


なにしろ予告編の2分ちょいくらいしか観てない状態で観に行った訳ですから、どんな内容かもさっぱりわからんのですよ。で、蓋開けてみたらアヴァンタイトルだけでこの映画がどういう方向に進んでいくか、主人公カガミ君がどういう人間か一発でわかる。話は極々シンプルなストーリー、「愛する女性を自分の親友かつライバルから取り戻す為に戦う」という上がる内容なんだけど、普通の話と違う部分は「主人公が一貫して下衆」ということ。この下衆っぷりがど真ん中すぎてむしろ清々しさすら感じてしまいます。


ま、愛する女性を取り戻すも何もそもそも告白する前に親友にかっさらわれてるんですが、その為にカガミ君が開発した「ヘリコプター型マシン」(恐らくこれを「ダークシステム」という)の主な機能が、犯罪に触れるタイプのアレ。で、作ったのは良いけどそのおかげでより悶々としてしまうのでした。他方、敵となる親友もどうかしていて延々とボケ続けます。しかもヒロインとなる女性も「あんたの心、どこいったんじゃ!?」ってくらい表情がなんもない。要はマトモな人間が一人も出てこないのです。この3人の異なるキャラクターがそれぞれに独特な「間」を生み、それがちゃんと「面白さ」に繋がってて素晴らしいです。前半1時間が「1」で、後半1時間が数年後に撮影された「2」との事らしいのですが「2」ではこの3人に負けずとも劣らない強烈なキャラクターが一人増えて、より「どうかしてる」感がパワーアップしてました。


主人公のカガミ君は前述の通り、立派な下衆で、真っ直ぐにひねくれた考えが独特の説得力を持っていました。公式HPにも書いてあるので書きますが、独特の熱い台詞回しは熱血マンガでお馴染みの島本和彦先生の一連の作品の登場人物を思い出します。島本先生の作品の台詞に
自分がその行為を見ていたら止めたくなるかもしれないが 俺の行為は俺には見えんから止めようもないっ!!(『男の一枚レッドカード』より)」
ってのがありますが、まさにそういう事ですよ。中二病もなにも、彼自身にはそういう風に世界が見えてんだもの、あの喋り方も逆にリアルですよ。人を睨みつける三白眼も、キ印マシマシで良し。あいつ「2」でふんわりパーマを当ててやんの。しかもその件に関してはスルー。
主人公の親友であり、ライバルの西園寺もまた非常に魅力的なキャラクターでカガミ君とどっこいどっこいの良い勝負の男。普通に見れば良い顔してるんですけどね。彼がマトモな時がほぼ無いってのもスゴいです。ヒロインのユリちゃんも前述の通り、一切の感情が無い、もっさりとした方なんですが、「2」のクライマックスに見せる唯一の表情が映画全体を締めたといっても過言ではない程、絶妙なタイミングで良い演技をしておりました。侮れん。「2」の敵であるファントムは、観て頂ければ解りますが彼の学ラン姿が非常にヤバいです。あの制服ってドコで見つけてきたんだろうね。もちろんその件に関しても当然スルー。どこまでボケててどこまでマジなんだかわかりません。


冒頭に今まででトップクラスに「謎」な映画と書きましたが、この映画がどういう経緯で作られた作品なのか、監督はどういう人なのか、出ている人たちは何なのか、が全くわからんのですよ。若手の映画監督って大なり小なり「影響を受けた監督に似た画」ってのを撮るじゃないですか。この作品にはそれが全く感じられないのです。あのカットはあの監督のあのシーンのオマージュだな、とかが無い。その割に画はカッチリと決まっているし、照明や効果音が物語の演出にちゃんと機能していて予算の少なさを見事に補っていると思いました。雨が上がってるシーンとか「おおっ!」と感心してしまいましたよ。あと、今作の緊迫感あるメインの音楽も監督ご本人が作られてるのね。より「謎」だよ!


ハリウッドでも日本でもよくやりがちなミスとして「ふざける」という事を間違えて解釈して作品を作ってしまうって事があると思うんですよ。「観客を笑わせるような面白い事をやる」時、ダメな映画って作り手がふざけてるだけなんですよね。「    」とか「    」とかね(カギカッコ内には思い当たる好きなタイトルを入れよう)。それは手を抜いているだけで、そういうの観るとホントに不快になりますね。でもこの作品って極めて真摯に作られているんですよ。大真面目にふざけた事をやる。もちろん「どインディー」の作品だけあって画面は安いですよ。「ダークシステム」つってもレゴとナップサックだし。でも今作は恥ずかしげな内容であっても、それを描く事に一切の「照れ」が無い。拙さやお金の無さは、アイデアと魂の熱さ=ガッツでカバー!という心意気が観ていて非常に心地良いのです。そして、その心意気が島本和彦先生の世界観とシンクロしているんだと思います。


劇場で声出して笑ったのは久しぶりでした。コサキンリスナーならわかる「バカでぇ!」の突っ込みが何度出た事か。笑っているうちに心がフと軽くなる、そんな映画。描いている事は中二病(ワタシの感覚では小学生くらいの魂)でも、ちゃんとした大人が愛情たっぷりに作った映画です。大人だなあ...。大人、ありがとう!ダメな映画に「お金がないから」という理由が通用しない事が証明された気がします。こういう熱い魂を持った作り手たちが今後もっと増えていく事を期待!だから映画を志す人は是非観るべきだ!
そして作り手の皆さん、「なんか・・・ありがとう!!(『男の一枚レッドカード』より)」




【おまけ】
島本和彦先生ご本人が歌う「炎の転校生」OPテーマ

「かなわぬ敵にも ひとまず当たれ!」ってこの歌詞がもう見事に島本先生の世界!


子供の頃に「コサキン勝手にごっこ」っていう、素人が作った映像を紹介する番組があってそれがスゴく好きでした。
今作でちょっとそれを思い出した。
「行け!止まれマン」


※本編から漏れた感想

  • 必殺技の使用時には「大きく発声」。正しい。
  • たった4人の登場人物でこんなに面白いんだもんなあ!
  • 4:3の画面もむしろ新鮮
  • この作品観る前に「世界にひとつのプレイブック」を観たんだけど、「世界に〜」の主人公も今作のカガミ君も冒頭で「女の子に告白の練習」をしてやんの。男心は世界共通!
  • 合成された音声ってビンビンくるね!やっぱり「ナイトライダー」世代なもんで。