「島田陽子に逢いたい」

twitterで「島田陽子に逢いたい」が超傑作!というツイートを見かけました。
なにそのタイトル!?と俄然興味がわき、昨日テアトル新宿まで行ってきましたよ。観る前はタイトルから察して落語の「紺屋高尾」みたいな話かと思ってました。染物職人の久蔵が憧れの花魁、高尾太夫に恋して見受けする為に一生懸命金を貯めて...。いや、この映画は全くそういう話じゃなかったけど。

今回は、いきなり感想から。敬称略。





評判通りの超傑作!でした。
「女優」島田陽子が映画の撮影現場を逃げ出し、ひょんなことから知り合った元役者の男の家に転がり込む。男は末期がん。それを知った島田陽子は彼に何かをしてあげたくなり希望を聞く。男の希望はドライブ。目的は墓参り。後は死ぬ前に別れた女房と子供の顔に見ておこう、と。そして2人のドライブが始まり...。
「女優が体一つで一般人の家に転がり込む」という、あまりにも荒唐無稽なフィクションですが、物凄くリアルに感じられました。それも一重に「島田陽子」という女優が醸し出す不思議な魅力があるからにほかありません。ボクが島田陽子さんを目にするのは映画とかテレビドラマなどの作品からではなく、いつもテレビのワイドショーからでした。つい先日も「島田陽子AVデビュー!」という話題をネットで目にしたばかり。でも島田陽子さんの話題はいつも「アメリカの映画『将軍 SHOGUN』に出演」とか「ゴールデングローブ賞受賞の」とか「国際派女優」という冠がついてました。ボクが知らないだけなんですけど、何をやってる人かわからないけど大女優というイメージが功を奏しているのかもしれません。確かに「島田陽子」だったらやりかねん!というかね。ピュアでキュート。画面からふわっとした空気が流れるようです。末期がんの元役者を演じる甲本雅裕と並んでお饅頭やラーメンを食べたり、車を押したりするシーンが可愛らしくてまるで「ローマの休日」のお姫様みたいでした。ロバート・ダウニーJr.やミッキー・ロークの時も思ったんだけどやっぱり役者は「作品」によって蘇るものなのね。こんなに素晴らしい役者なのにもかかわらず、そんなに知らなかったのが残念でなりません。

しかしそんな「お姫様」にも何ともしがたい現実にぶつかる訳で。

末期がんの男、「死」という抗えない現実をもった男に対して「女優」は一体何ができるのか?
「女優」は人を救う事ができるか?
島田陽子はそこで、まさに「女優」にしかできない方法で立ち向かうのです。

この語り口に深く感動しました。いわゆる「余命もの」ジャンルに分けられるような話なのに、この作品は群を抜いて素晴らしいです。「死」をそんなに大袈裟に取り扱っていない。この映画で一番ドラマチックになるところは「生」を取り扱う瞬間。映画内の「死」と「生」が「友情」でリンクする。そして登場人物たちにはそれぞれ帰るべき場所がある。なんて優しい映画なんだろう!「イングロリアス・バスターズ」は「映画」で悪い奴をやっつけるけど、この映画は「映画」で人を救おうとします。行間を埋める田舎の景色と共に、映画の撮影現場のスタッフたちが働いているカットに自然と泣いてしまいました。


しかしながら、実はこの「島田陽子」は架空のキャラ。
冒頭、スタジオで生島ヒロシ(!)が島田陽子に「この映画」についてインタビューをします。そこで島田陽子は「この話のキャラクターは普段の私よりもピュアで、本来の私だったらここまでではないです。」という内容の話をし始めます。これフェイクドキュメンタリーなんですよ。本ストーリーの合間に生島ヒロシとの「この映画」に対するインタビューが挿入されており、そこで島田陽子から解説が入ります。この男に対する心情、女優という職業についてなど。最近はフェイクドキュメンタリーが多くて、この手の構成って正直手詰まり感もありましたが、この作品はクライマックスで「フェイクドキュメンタリーの新しい話法」を見つけていました。見事です。ラスト、「虚」と「実」の薄い皮膜を観た事無いやり方で突き破ってました。正直フェイクドキュメンタリーという言葉も当てはまっていない気がしています。この映画が常識を飛び越えた瞬間、この物語の世界に吸い込まれた感じがしました。3Dが流行ってるのにね。飛び出してくるという映画体験は最近多かったけど、吸い込まれるという映画体験は初めてです。


劇場が明るくなって初めて「全て架空の話」だという事に気づかされる。気持ちは映画の中に持っていかれたまま。
何が本当で何が嘘かわからない。いや、
最初から本当の事など無い。
でもあの映画の中には確かに「本当」があった...。
超絶不思議体験。イリュージョン。アイデアと映画愛の勝利。この禍々しい魅力にすっかりやられてしまいました。残念ながらこの映画、ボクが気づくのが遅くてこのブログを書いているこの時点であと一回しか公開されません。チャンスがあればこの「映画体験」をしてみてはいかがでしょう。
追記:10/23でテアトル新宿での公開は終わりました。でもきっとDVDになるはず!

作品情報
ラブ・アンド・エロス・シネマ・コネクション



【おまけ】
こんなに書きましたが、恐らくこの映画を観る事が出来る人は(機会的に)ごくわずかでしょう。と、いう事でいまおかしんじ監督の「かえるのうた」という作品もオススメします。DVDにもなっていてツタヤで借りれる手軽さ。もとはピンク映画なんだけど、多幸感溢れまくるラストに震える!

「かえるのうた」予告編



今回、本文にこぼれた感想。

  • 寺とかガソリンスタンドのシーン良かったなあ。元女房や娘っこにもちゃんと見せ場があって素晴らしいよ。
  • 島田陽子はじめ登場人物が誰1人として逃げていないのが良い。
  • 生島ヒロシの抜群の安定感。彼がインタビューするから余計現実と虚構が混乱する。いや、良い意味でよ。生島ヒロシが観客を現実に引き戻すキーパーソンとして特に効いているってことで、「おはよう定食」のオモシロがどうとか言ってないってば!