「僕は人を殺しました」

最近、twitterの極めて一部で猛威を振るっている、映画「僕は人を殺しました」宣伝アカウント(フォローしてはアカウントを消しの繰り返し。さらには「僕殺」「殺殺(コロコロ)」「殺殺2」「殺殺3」「殺殺4」「殺殺5」など更なる別アカウントを増やし、全盛期のスーパーストロングマシンを思わせる増殖っぷり)ですが、いったいどれくらいの方々がこの映画をご覧になった事でしょうか。ボクは観ちゃったんですよ。今回は謎の映画「僕は人を殺しました」の感想です。


【あらすじ】※シネマトゥデイより引用

2人組の男が一般の男性をとあるマンションに拉致。その後、監禁状態に置き、殺してしまう。その過程を、セリフを極力抑え、演者の顔もほとんど見せずに、ただその場で起こっている出来事を映し出していく。

あ、そんな話だったんだ。

【予告編】


はい、以下感想です。






照明無し、説明無し、台詞無し、音楽無しの1時間20分。
あるのは暗闇と微かな光。
音も全くの自然音を使ってるからとにかく静かでね。セミとかコオロギの鳴き声とか聴こえちゃってね。どんくらい静かか?って言うと、上映してる下北沢トリウッドの空調のオン/オフがわかるレベル。ぶっちゃけ何が映ってるかよくわかりません。場所はたぶん土手。動いているのは登場人物が持っている懐中電灯の光。画面の奥の方で、もぞもぞもぞもぞと何かが蠢いている。何かを殴ったような鈍い音とうめき声。(恐らく)1シーンにつき同ポジでワンカット。

終始こんな感じ。

こ、これを観ているのは辛い...!!


ただねえ、端的に言えば非常に面白かったのですよ。そこが厄介なところで。


この映画全体が既に「殺人者の心」を表現した形になってんですよね。
ニュースとかでよく殺人事件など観ますけど、あー言った話で「凶行を起こした犯人の心の闇」なんて特集汲まれて、心理学者がそれなりのコメント言ってるじゃないですか。なんかこういう場面で心理学者の方が言うには、明るい部分がまずあって、その中に小さく「黒いモノ」とか「闇」があるみたいな表現をされてるんですよね。いや、そうじゃねえんですよって話。
ボクがこういうので思うのは、単に「心の闇」......というか、その闇の中にポッと豆電球みたいな光があって、そこに当たってるモノが本当の姿のような気がしてるんですよ。闇の中で小さな光に当たってるモノは何でも良いんですが、例えば「ロリコン」とか「盗撮」とか、「万引き」とか「露出狂」とか。とにかく一人でシコシコやるような誰にも言えない事。で、際たるモノが「殺人」。ボクが思う犯罪心理ってやつとこの映画が全編を通してやっている「暗闇の中に小さな光がポッとあって、それがもぞもぞ蠢いてる感じ」ってのがぴったしと合ってしまったので、「あ、わかるこの感じ!」となってしまったのです。


いちおう犯人と男が出てくるんですが、その二人の関係性もよくわからんのです。たぶん行きずりです。この辺りも良いんですよ。
人を殺すのに理由なんていらないんですよね。で、こういうのが被害者にとって一番怖いんです。殺された理由が無いってやつ。なにか良からぬ事が起こったら「どうして!?」ってのが一番欲しいじゃないですか。納得がいかないのが一番ヤな話ですよね。悲嘆のどん底に突き落とされます。殺された方も残された方も。この不快感も併せて観客に疑似体験させてくれてるんですよ。まったくいやらしい映画ですね!(褒めのテンションで)


不快感を疑似体験、と言えば他にもありますよ。再三書いている通り、全編に渡って画面が暗いので観てるこっちには結構辛いものがあります。テンションが一定って言うんですかね。盛り上がりとか一切無いです。誰が誰を殺そうとしてるかわからないし、この逃げ場の無い感じが「拷問」を疑似体験させられてる気持ちになってきます。
この辺りでハッ!としてしまったんですが、もうなんかよくわからねえから、どっちでも良いからサッサと殺してくれねえかなあ...と、この物語に対して思ってしまったんですよ。これは随分恐ろしい事ですよ。登場人物の誰にも思い入れができないように作られているとはいえ、あと「拷問」の疑似体験が辛かったとはいえ、自分にも確実にある「残虐性」に図らずも気付かされてしまった一瞬でした。


客に恨みでもあるんだかワカリマセンが、もう徹底的に何が映ってるんだかわからないように撮ってるんですよ。夜は前述の通り、真っ暗に小さな光。昼のシーンもあるんですがずっとピンぼけっていう...。たぶんだけど街を歩いてても誰にも気付かれてないんですよね。このあたりも非常に怖いんですよ。霊的な話じゃなくてね。そこにいるにもかかわらず、誰にも相手にされない。深夜に台車でゴロゴロと音を立てて(なにかを)運んでいたら、誰かしらに声をかけられるだろうにそれが一切無い。この映画に出てくる登場人物たちの気付かれなさは異常。
「誰にも気付かれない」という事は恐怖以外のナニモノでもありません。「孤独」や「疎外感」は人間を凶行に走らせるには充分な理由。

もの言わぬ彼らが唯一はっきりと自己主張しているのが、この映画のタイトルだけ。

「僕は人を殺しました」



人間の奥底に眠る「恐怖」や「狂気」、「残虐性」を幾重にも重ねてタイトルで締める。
この構造は非常に上手いと思います。いやホント重ね重ねいやらしい映画ですね!


ボクは結構満足しました。ただ、ご覧の通りマジで「観客に対するサービスゼロ!」な、極めて挑発的な映画ですので、ご覧になる方を止めるなんて野暮な事しませんが、各自、自己責任でおまかせしたいところ。


マジでスゴいと思います。


こういう映画を作った監督とそれを上映している下北沢トリウッドの、それぞれのハートの強さが!



【おまけ】
なんとなくこんな気分で。

あら!意外とこの映画にあってるかも。





※本文から漏れた感想
...っていうか、まあ前回の「隣る人」の感想と比べてこの筆致の軽さよ!スラスラ書けたのはやはり性にあってたんでしょうなあ。