「電人ザボーガー」

オリコンのニュース。

【相次ぐ漫画・アニメの実写化、6割以上が「嬉しくない」 】
近年のドラマや映画では、人気漫画をはじめアニメ、ゲームなどを原作とした“実写化作品”が多く誕生しているが、この現状を世間はどう捉えているのだろうか? このほどORICON STYLEが10代〜40代の男女を対象に行った調査では、漫画等の相次ぐ実写化に6割以上が【嬉しくない】(まったく嬉しくない:16.8%、あまり嬉しくない:48.4%)と回答。実写化の傾向への不満が目立つ結果となった。また、実写化が実現した際に求めることには、【原作に合ったキャスト人選】(69.6%)という声が多数寄せられ、実写化作品の成否のカギを“キャスティング”が担っていることが、改めて浮き彫りとなった。

そりゃーそうだろうなあ。読んだ人の分だけ「思い入れ」ってのがあるでしょうから、自分の思い入れと違う事されちゃうと嬉しくないでしょうよ。上手い事やってくれりゃあ納得もするんですけどね。往々にしてヒドい事になってるから腹も立ちますわい。「鉄腕アトム」や「忍者ハットリくん(not香取くん)」や「ドカベン」のように昔から「漫画・アニメ」の実写化ってあったけどアレってキワものの類いで、決してメインストリームでは無かったと思うんですよ。今じゃオリジナル脚本の作品の方が目立たない。なんでこんなにアホみたいにマンガやアニメの実写化って増えたんでしょう?


結局「金の流れが手っ取り早い」の一言に尽きると思うんですよ。仮に、後に傑作になるであろう完全オリジナル脚本を「映画を作る現場の人間」が書いたところで、「お金を出す人間」が一番興味があるのは「金出した分、回収できるのか?儲かるのか?」だけしか無いんだよね。「サウダーヂ」とか「トーキョードリフター」とか、いくら良くてもイチから説明しなきゃいけない内容の映画なんてお金が集まりませんよ。そうなってくると「あしたのジョー作ります!」とか「BECKを作ります!」って誰でも知ってる鉄板の企画の方がお金を出す側の人間も「知らないオリジナル脚本よりも、あの人気マンガを映画化すりゃあ、金出しても少なくとも大損こかないだろう。」って思うわな。で、それなりのキャスティングして現場に丸投げすりゃあ良いと思ってる。要はお金を出す人間に「実写化に対するファン心理」なんて考えは無いんですよ。道楽でやってんじゃないんですから。実写化を良しとしないっていうアンケートがこういう結果になるってのも必然だと思いますよ。今は道楽に金を出すっていう余裕のある企業が少ないからこういう画一的な作品ばっかりになっちゃってるんでしょうねえ。まあ困っちゃうのは映画の現場の人間とそれを観せられる観客なんですけどね。


マクラが長くなりましたがここから本題。遅ればせながら「電人ザボーガー」の感想です。マンガ・アニメの実写化に近い話。過去、TVで放送されていた作品のリメイク。ちょうど今日12/15をもって新宿バルト9での2ヶ月に渡る上映が終了しまして。最後の上映に行ってきましたけど、監督と出演者のお礼の挨拶があった事もあって満席でしたよ!


【あらすじ】※シネマトゥデイより引用

秘密殺人強盗機関Σ(シグマ)に父・大門勇(竹中直人)を殺され、復讐(ふくしゅう)を誓う大門豊(板尾創路古原靖久)は、地球の平和を守るため、亡き父が作った変形型のバイクロボット“ザボーガー”と共に日々戦い続けていた。そんな彼の前に敵の女サイボーグ、ミスボーグ(山崎真実)が現れ、大門は好意を抱くようになるが……。

【予告編】

以下、感想です。




結論から先に書いちゃうと今年のベスト5、邦画だとトップクラスの面白さでした!


この作品は井口昇監督とサボーガーを作ったピープロの世界観がシンクロした幸せな例。というかそもそも井口監督の「片腕マシンガール」や「ロボゲイシャ」が、「電人ザボーガー」が作った道を継承していく覚悟があったっていう解釈のほうが自然かもしれません。ゴジラを作りたくてガメラ作ってた金子修介監督が、その評価を買われ実際にゴジラの監督をしたっていうエピソードに近いかも。


井口昇監督が原作のある話を作る」っていう、ある意味「チャレンジ」は、果たしてスゴくいい結果でしたね。昔の企画をリメイクする場合、いまの作り手の皆さんは、ほぼ「ダークナイト」を目指ちゃうんじゃないでしょうかね。デザインとか作品のテーマとかに「現代」をぶち込んで。で、だいたい失敗するんですけど。井口監督の何が上手いって「残す部分」と「手を加える部分」を見極める力ですよ。オリジナル放映当時、ピープロが予算の無い中で作り上げた「画」。まあ、ぶっちゃけ今観たら(といっても、当時観ても同じかもしれないけど)拙いですよ。ああいうところを直したいからリメイクってするもんなんですけどね。今作はそんな拙さを【「電人ザボーガー」の良いところ】と解釈して絶妙なバランスでほぼ残しています。ザボーガーがワンカットで変形するところはCGなどで描いているけど敵のマシンは幌付きトラックに顔くっつけただけみたいな感じ。「拙さ」を良しとする審美眼は信頼できる名工細かいネタやデザインはしっかりとオリジナルを忠実に再現してるからね。「まさかそんなバカな話をぶち込むとはさすが井口監督だな!」と思ったら、実はオリジナル作品にあるネタだったとか衝撃ですよ、ホント。「リメイクした」というよりも「レストアした」という表現の方が合ってる気がします。


そんな中で、ストーリーにもちゃんと「現代」を入れているところが素晴らしいですよ。最近のヒーローものの話で流行っている「正義論/本当の悪とは」っていう話ではなく、自らの「老い」と格闘するという話。「何が正義で何が悪か?」っていうテーマも良いけど「老い」というのは必ず誰でもぶつかる問題だからね。観客と直結してる話だから物語にどんどんハマってしまいました。まあ、バットマンのマンガの「ダークナイト」にも「老い」については描かれてますが今作の方が親近感があるんですよね。これはひとえに第二部の主人公を演じた板尾さんのキャラクターの成せる業だと思います。
また、ホントに悪い奴がやってる事が原発推進っていうのはタイムリー過ぎて笑ってしまいました。作られたの震災前なのにねえ。


第一部のギャグも面白いし、竹中直人さんや柄本明さんの演技が程良い。クライマックス、敵と戦う「死地」に向かうという最高にテンションがあがる絶妙のタイミングでテーマソングがかかるという嬉しすぎる演出など、これだけでも充分満足なんですが最終的には泣いてました。ものスゴくオリジナルニ対する愛情を感じていたんですが、オリジナルで主役を演じていた山口暁さんがご存命でちょろっと出てたらもっとスゲえだろうなあ...とも思っていたんですよ。その点、さすが井口監督ですよ。ラストにちょろっと嬉しいサービスをしてます。更にちゃんと山口暁さんとピープロうしおそうじさんに敬意を表してました。文句ありません。素晴らしかったです。


大笑いして、興奮して、思いっきり泣く。見事なエンターテイメントでした。スタッフやキャストの皆さんから「電人ザボーガー」に対する愛情や、「この作品がどうしても作りたいんだ!」っていう熱意が伝わってくるようでした。それぞれの才能が監督の力によって一方向にちゃんと向かっている感じ。そういう作品を観ると「面白い!」を通り越して「観てて気持ち良い!」と思うようになるんだね。




【おまけ】
懐かしの映像、「スーパージョッキー」で取り上げられた「電人ザボーガー」。
今放送してる「情報7days」のたけしさん観ても思うけど、「ビートたけし的な解釈」ってこうだよね。
こういうツッコミはこれで良いんだけど、「言わぬが花」って言葉があるでしょ。まあ「野暮」って事ですよ。

話は飛びますけど「裸の王様」っていう童話、「王様は裸だ!」って言っちゃった子供って、すげえ野暮だと思いません?あれ、王様が素っ裸で歩くっていう「珍イベント」を楽しんでた国民の方が多かったと思ってるんですよね。国民だって王様がすっぱだかで歩いてたらいくら何でも笑っちゃうし、良い機会だからおだてにおだてて素っ裸の王様で楽しんでやろうくらい考えないですかね。「素直」な子供の一言でお開き。野暮なガキだなあ...。




※本文から漏れた感想

  • 渡辺裕之の演技が良い。第二部でだいぶ環境が変わったところにいて常に笑顔なんだけど、その笑顔が一つ一つ違う。中でも哀しい笑顔の時はグッとくる。
  • ザボーガー自身の顔も表情豊かなんだよね。ロボットなので変化は無いんだけど、ザボーガーがどういう気持ちでいるかって事が確実にこっちに伝わる。
  • 今日(12/15)の舞台挨拶、井口監督が直々に「どーもー!こんにちはー!!」つって自分で司会やらされてた!終始笑いが絶えなかったけど、ラストの監督の挨拶に、この作品に対するプレッシャーや産みの苦しみ、うしおそうじさんと山口暁さんに対する敬意がにじんでいて感動的だった。