ニコニコ動画「片桐えりりか 室内花火で大騒動!マジキチ ネ申配信 ダイジェスト」

今やってる「ドキュメンタリー10番勝負」で取り上げる作品の中でも一番の飛び道具。半年前にニコニコ動画で話題になった作品の感想です。作品?

まずはこの動画をご覧ください。
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自称ネットアイドルの女が部屋の中で花火に火を付け、インターネットで生中継したとして書類送検されました。警視庁によりますと、自称ネットアイドルの20歳の女は先月3日、東京江戸川区の知人のマンションの部屋でいすに括り付けた20本ほどの花火に火を付けて、インターネットの動画サイトで生中継した疑いがもたれています。けが人はいませんでしたが、煙に気がついた近所の住人が通報する騒ぎとなりました。警視庁は「売名の為の悪質ないたずら」と判断し、女を軽犯罪法違反の疑いで書類送検しました。

まず、大前提としてこの動画は非常に悪質であり犯罪です。火災になっていたらと思うとゾッとする。なにより、いたずらに消防車を出動させてしまっているのが問題。このタイミングで火事が他の場所であったら出動に影響あるからね。良かったよ、ちゃんと書類送検されて。火事なんてとんでもないよ。江戸時代だったら殺されてるわ。今から書く話はこの行為が「良い」って褒めてる訳ではないですよ、念のため。子供が悪い事したら大人はちゃんと叱らなきゃいかん。恐ろしいのはこの人が20歳ってことだけど。

以下、感想。





もうだいぶ前から「カメラ」というものはボクらの生活に普通に入ってきてて、撮って観るって事に関しては珍しい事ではなかったですね。でもそれって極めて私的なもので、「完全な第三者の目に触れられて更に何か言われる。」っていう事なんてほぼ無かったですよ。今の時代はニコニコ動画USTREAMなどで誰もが気軽に「生中継」出来るようになっちゃったので随分と大変な事になってると思います。


ボクも何回かUSTREAMで「生中継」をした事があるんですよ。居酒屋で酔っぱらいながら友人たちとグダグダ話してるだけ。そうするとコメントでリアクションが返ってくるんですよね。「誰かが聴いている」っていう認識があると、どんどんしゃべってしまう。なんか知らないけど「暴走」するんですよ。しゃべってる時に明らかに声がでかくなってる自分がいる。逆に完全に撮ってる側に回って「生中継」をした事がありますが、映ってる人は確実にテンションが上がっていくのがわかるんですよね。あの高揚感は本当に不思議。自分も実際にやってみて思い知らされました。ドキュメンタリーを作ってる人は上手い事言ったもんで間違いなく「カメラは暴力装置なんですよ。心の奥底が勝手に開かれちゃう。


「Peace」みたいな観察映画は「カメラは暴力装置」であるという事を徹底的に気付かせないように撮る。ただ現実がありのままに映されてしまうという事でその威力を発揮している。現実がありのままに映されてしまうという事では「監督失格」のあのシーンもそう。
平野勝之監督の一連の作品は「監督失格」のあのシーン以外は「カメラは暴力装置」であるという事をはっきりと認識させて撮る。カメラ在りきで人の心に踏み込んで行く。どんどん追い込まれた挙句に出てしまった人間の「一瞬」を逃さない。「流れ者図鑑」の追い込みっぷりは観ているこっちが怖くなる。
「カメラの存在」を意識してないと本音がポロリと出てしまう。
「カメラの存在」を意識すると過剰に気分が高揚したり、精神が追い込まれたりする。
いずれにせよ「カメラ」は取扱危険な代物なんですよ。


で、この動画はその両方の危険性がもの凄く伝わる良い例なのです。
この片桐えりりかさんは才能なんだか無意識なんだかどんなにパニックになってもPC(=カメラ)を手放さない。事の重大さに気付いて徹底的に保身を考えてる時の表情とか、それをからかう浅薄な人間の表情とか、登場人物の人間の喜怒哀楽を全て撮っています。自分を被写体の中心にして。
これは【撮る、撮られるという「快楽」】を知ってしまった為に、完全にダークサイドに堕ちてしまった人間がどういう事になるかを克明に記録した動画。
なにより「人間はどうしようもなくマヌケだ」という事をはっきりと映してしまった「作品」として非常に心に残ったのでした。

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※本文から漏れた感想

  • 表情以外にもちゃんと「消防車がマンションを取り囲む」という画があったり、PCを置いて部屋に戻るラストカットの画角がカッチリと決まっていたりとホントに才能か無意識かわからないけど良く撮れてて映画的。
  • そもそも「生中継」なんだから、誰だかわからないけどこれを編集した人にも感心する。
  • ニコ動特有の「コメント」も含めて、なんか「奇跡的に」良く出来たドキュメンタリーだなあと思った。