「glee/グリー ザ・コンサート3Dムービー」

ドキュメンタリーってだいたい被写体がしゃべっている「言葉」に重きを置いていて、「音楽」というのはあくまでも「おかず」であるんだけど、じゃあ音楽が「メイン」のドキュメンタリー場合、どういう作用があるんでしょね。
一寸前にちょうど「音楽」を取り扱ったドキュメンタリーがやってたんで観に行きました。「glee」。今までの重めな流れとはうって変わって今回は海外の作品のご紹介ですよ。

glee」観た事ないけど。


【解説】※シネマトゥデイより引用

アメリカをはじめ世界規模の人気を誇るテレビドラマ「glee」のキャストが、劇中さながらのパフォーマンスを披露するコンサートツアーの模様を収めたコンサートムービー。5月21日のラスベガスからスタートしたツアーステージの模様はもちろん、その舞台裏にもカメラが迫る。レイチェル役のリア・ミシェル、フィン役のコーリー・モンテースら、主要キャストが登場。キャストたちのパワフルな歌や踊り、さらには会場の熱気を興奮の3D映像で体感できる。

【予告編】

以下、感想です。





放送作家のせのちんさんがラジオで
「『テレビドラマの映画化』は、テレビドラマファンの為にあるという事であり、『同窓会に参加する』事と同じだ。」
という内容の事を言っていたのを覚えてるんですよ。なるほど「至言」だな、と。もちろん洋画にもテレビドラマの映画化ってのはあるけど、今の日本映画はえげつないほど「テレビドラマの映画化」が流行っていますねえ。いちげんさんお断りの作品でも、金出した分の元は取れるだろうという打算の基に作られてる。まあ、そりゃそうだよね〜と思いつつ、テレビドラマの「同窓会」なんぞ映画館でやるんじゃねえよ!、と思っていたのも事実でございまして。


で、今回のこの「glee」を観てビックリしたんですよ。この映画はいちげんさんでも楽しめる作りという抜群の「説得力」を兼ね備えた、まさに「テレビドラマの理想的な映画化」だったのです。同窓会レベルではなく、もはや「音楽を奉る奇祭」。テレビドラマが題材だけど、これは確かに映画館の大きなスクリーンで爆音の中みんなで観た方が面白い!
glee」の本編を見てないボクは、当然誰がどういうキャラクターなのかという事は全くわからないのですが、この映画にはその情報不足を補って余りある「歌」がありました。彼らが歌う曲には感動させるエネルギーに満ちあふれていたのです。


オープニング。緊張と喜びの中で出番を待つ俳優たち。また、同じように楽しみに開場を待つ「glee」ファンの皆さん。それぞれの思いが重なる瞬間が一曲目。その瞬間の「楽しい!」というエネルギーはもの凄かったです。まさに熱狂。圧倒されて一気に引き込まれてしまいました。ボク、誰がどういうキャラか全くわかってないんですよ。でもとにかく観ていて心地良い。ちょうど「ブルースブラザーズ」のジェイクがジェームス・ブラウン師父の説教を聴いた時のように、ボクも体が震えてリズムを取らざるをえない。そんな感じ。音楽というのは「理屈が通用しない」という事がはっきりとわかりました。


この映画、というかこの映画が収めているコンサートって変わってて、俳優たち(とはいえ歌が上手い!)はあくまで「glee」の登場人物として、観客たちも舞台上の俳優たちを「glee」の登場人物という認識で熱狂してるんだよね。それ観ながら「なんか、良いなあ...。」と思ったんですよ。ミュージシャンのライブを観るってのとちょっと違う。「SR サイタマノラッパー」シリーズのSHO-GUNGやB-hackのライブを観に行った感覚と近いかも。もの凄く身近に感じました。これはボク自身色んな映画を観てきて俳優のパーソナリティよりも、その俳優が演じているキャラクターたちに魅せられてきたのと同じ事なんだと思います。


本編のコンサートの映像と並行して「glee」ファンの皆さんが色々といかに好きか?というインタビューが紹介されます。なかでもメインになるのは3人で、「小人症でチアリーダーの女子高生」と「アスペルガーの女の子」と「ゲイの男の子」。彼女たちもまた、「Glee」に感動し、生きる希望を見出した、と。
このインタビュー部分でぼんやりとだけど、この「glee」ってのは高校の合唱部でありながら「マイノリティ」を描いていて実社会にいる「マイノリティ」にちゃんと反響しているという事がわかってくるんですよ。
へぇ〜、確かに音楽はスゴいし歌は上手いし、俳優たちも芸達者だ。でも正直「そんなに?」っていう気持ちも途中までありました。
それが決定的に「このドラマすげえ!」って思った曲があるんですよ。LADY GAGAの「Born This Way」。
登場人物たちが全員「自分のコンプレックス」をでかく書いたTシャツを着て歌い、踊るんですよ!
本編観てなくても間違いなくこの作品は良い作品だ!って一発で伝わりました。
「Born This Way」という歌の歌詞をはっきりと理解、分析し、人間のドラマとして描き、また「歌」として表現する。
自分はこういう人間で、コンプレックスを全て受け入れて生きていくという「決意表明」。
「諦観」とは違うんですよ。「潔さ」なんですよ。

全ての人間が「同じ」が望ましいと学んできた学校教育とは教える事が違う。
コンプレックスを肯定して生きるという潔さ、そのシーンがカッコ良すぎて自然と涙が溢れます。
確かにこのドラマは勇気づけられる!


本編から観て楽しんできた方々にはあの「ファンのドキュメンタリー」シーンって要らなかったかもしれません。確かに純粋に「glee」を楽しみたい人にとっては他のファンのエピソードなんて邪魔な話。だったらもっと曲を増やしてくれ!と。でもボクはあの一連のドキュメンタリーのおかげで「glee」のスゴさがわかりましたし、改めて音楽の「強さ」というものを知りました。普段言いにくい言葉でも音楽に載せ、「歌」と形を変えると人に伝えやすくなる。その「言いにくい事=言いたい事」が音楽によって多くの人に波及していく。この現象を伝えるにはドキュメンタリーが丁度いいジャンルだと思いました。


そしてこの作品は「いちげんさん」をファンにする事が出来るという魅力のある希有な例
金や事務所の力だけでテレビドラマを映画化した、あの「××××」や「××××」など(×にはお好みの映画のタイトルをお入れください)とは一線を画しています。


glee」の本編、観てみよう。






【おまけ】
glee」で図らずもLADY GAGA様の素晴らしさを知りました。
歌詞があんまりにも良過ぎて「Born This Way」が先なのか「glee」の為に作ったのか混乱したほど。

単に面白いカッコするお姉さんかと思ってた。




※本編から漏れた感想。

  • カット割りが「音楽の描き方」としてはあまり上手くない。カット割りが激しいので「俳優の動き」を撮るには良いんだけどね。
  • カット割りが激しいってのは3Dでは致命的。機能していない。
  • 3Dの必要性は全くないよね。ラストのペンキ「スラッシー」くらいしか。
  • glee」ファンの皆さんの方がこの映画の出来に不満が若干ある(主要人物が出てきていないとか)というのが面白い。
  • 「Jessie's Girl」もナンバーのひとつとして披露されるんだけど、ボクの中で「Jessie's Girl」は「ブギーナイツのクライマックス【最後の賭け】にかかる曲なので「恐怖」でしかないよ。爆竹パーン!!