「監督失格」

平野勝之監督の「映画」の最新作が公開される。】
このニュースを聞いた時に胸がグッと締め付けられました。
ついに平野監督に、「あの人」の事を再び取り上げる覚悟ができたのか...。
観たい!けど、怖い。
今回は今年観た映画の中で第一報を聞いて以来、観るまで一番緊張した映画。「監督失格」についてです。

【解説】公式HPより引用

□「監督失格」は、「ヱヴァンゲリヲン新劇場版」シリーズ総監督の庵野秀明、実写初プロデュース作品です。
□「監督失格」は、ロードムービーの名作「由美香」の平野勝之監督、11年ぶりの新作映画です。
□「監督失格」は、平野監督の仕事仲間であり、元恋人、2005年34歳の若さで急逝した女優・林由美香の最新主演作です。
□「監督失格」は、「喪失」と向き合う人々を描いたドキュメンタリー映画です。

COLOR | L85:1 | 111min. |STEREO

【予告編】

以下、感想です。





昔から平野勝之監督のファンで、林由美香さんのファンで、「監督失格」という映画が作られているというニュースを聞いた時には本当に観たくて観たくなかったんですよ。観たいってのは自分でも納得ができるのです。平野監督の最新作ですから。しかもあの庵野秀明監督プロデュース。さらに東宝の配給。てっきりポレポレ東中野でやるもんだとばかりと思ってましたし。でも、この映画を観るという行為には常になぜか「怖い」という感情が半分くらいありました。
はっきり言って観たくない。
とは言え、「観なければいけない作品だ」という意識の基に「観たくない」と言っているのです。「監督失格」という映画を考えるといつもモヤモヤしてしまいました。とりあえず「観る」のは間違いない。という事で、復習と予習をかねてポレポレ東中野でやった「自転車三部作オールナイト」にも行きましたし、その時に販売していた前売り券を購入しました。
なぜ「観たくない」のか?
理由は結局「監督失格」上映終了まで気付けませんでした。


観に行く!と意を決して六本木に向かう時の気分は憂鬱で本当に嫌でした。前日の晩が緊張であまり眠れない。ただ「映画」を観に行くだけなのにね。六本木についてとりあえずビールを一杯。とてもじゃないが素面ではいられない。「弱い」とは思うがしょうがない。それくらい緊張していたのです。


そして上映開始。終了。


34歳にもなると自分の意識以上に涙脆くなっていて、今じゃどうでもいい映画でも瞬間的に涙がこぼれるのですが、映画を観て足腰が立たなくなるほど号泣してしまったのは初めてでした。確かに「平野勝之最新作」でしたし「林由美香最新作」でした。そして「観たくない」と思っていた理由がはっきりとわかってしまったのです。




観終わって一ヶ月くらい立った後、とあるイベントに参加した際、ボクは平野監督に直接「監督失格」の感想を伝えるという極めて貴重な体験をさせて頂きました。千載一遇。
その時監督に伝えた内容がボクの感想の全てです。こういう風に話しました。


中学校の頃から本当に監督にはお世話になりました。その頃と言えば、だいたい鉄板の宇宙企画を一本、て、あと「冒険」でなにか他のメーカービデオを一本、併せて2本借りると言うのが基本だったんですが、その「冒険」の部分でいつも観ていたのがカンパニー松尾監督やバクシーシ山下監督や平野監督でした。その平野監督の最新作が東宝の、しかも六本木という東京のど真ん中の劇場で観られて本当に幸せでした。もちろん林由美香さんのファンでもあって、2011年にもなって更に「林由美香」最新作が観れたというのは嬉しかったです。
でも本当のところを言うとボクはなぜか「観たくない」という気持ちもあったんですよ。
今ボクは34歳で、「あんにょん由美香」を撮った松江哲明監督と同い年なんです。「あんにょん由美香」の中で平野監督は松江監督に「(林由美香を題材にして)中途半端なモノを作るなよ〜!」とおっしゃってました。それがスゴく印象的で。
ボクは「あんにょん由美香」を観終わった時に「良かったなあ。」とホッとしたんですよ。
監督失格」を観た時に、そのボクがそれまで思っていた「良かったなあ」っていう感情は「心の中で林由美香さんの死をごまかしていた」って言う事に気付いたんです。それがわかった時、号泣してしまったと同時にものすごくスッキリしました。本当に素晴らしい作品をありがとうございました。


ボクも平野監督同様、林由美香とお別れしたくなかった」んですよ。

松江監督の「あんにょん由美香」は良い映画で、大好きで、「林由美香の死」という出来事に対してはこの映画で落ち着いていた自分がいます。
でも、やっぱり松江監督の映画は「憧れの存在の死」を描いていて、「実際に一緒に闘ってきた同志」の平野監督が作った「監督失格」とは完全に意味が違っていました。
監督失格」という映画を観ちゃうと、ひょっとしたら「林由美香」とお別れしなければならないかも、という思いが心のどこかにあったんだと思います。だから観たくなかったんだ。映画のクライマックスで自分が持っていた隠れた感情にもはっきりと気付いてしまい、号泣はしたんだけど、今までモヤモヤしていた気持ちが一気に晴れたのです。
平野監督は「監督失格」を作る事で「林由美香」という同志を見事に弔っていました。
その思いを見せてもらえただけでも感謝の気持ちでいっぱいです。


実際、「監督失格」はその後にもう一回観たんですが、今度は一切泣かなかったんですよ。
ボクも「林由美香の死」という事実が昇華できたみたいです。
映画製作の第一報を聞いてから、監督に直接感想を伝えるまで、というのはボクにとっても非常に価値のある、一生忘れないであろう映画的体験でした。





【おまけ】
今回は全て「思い入れ」だけで書いたので、いつもの感想っぽいやつを何点か。

  • 平野監督もまた「構成」が上手い。いろんな言葉や画が全て伏線になっている。色んな情報を集積して一つの形にする能力はやはり「監督」。
  • 問題の「あのシーン」。本当に息を呑んだ。想像を絶するシーンなのに画角が完璧。完璧過ぎてやっぱり「林由美香」本人が撮ってたんじゃないかと思う。
  • 「監督の奥さんはどうなってんだ!」とは別に思わなかったです。出てない理由も直接聴きましたが必要ないでしょ。由美香と由美香ママと監督の世界というミニマムな話なんだから。あの映画の女性は2人で充分なんです。出すだけ野暮なんですよ。実際「流れ者図鑑」の主役の女性はモザイクかかってたし。お弟子さんに関しては「性別」を考えてないんだと思います。
  • 平野監督と由美香ママとの交流を見るとドキュメンタリストっていうのは本当に人の人生と一生付き合わなければいけないんだなあと痛感させられました。
  • 平野監督にしてもカンパニー松尾監督にしても「男」としてもの凄く「良い顔」になってますよ。「由美香」の中学生みたいな顔の時と比べると。
  • 1回目に観た後、どうしても行かざるを得ない!と思って行った野方ホープのラーメンが暖かかった。「帰りに野方ホープでラーメンを食べた」というところまでがボクの監督失格1回目の鑑賞。