「アンチクライスト」

都内の映画館も少しずつ通常営業に戻ってきましたね。そんな中、昨日は会社終わりで「アンチクライスト」を観てきましたよ。

【あらすじ】※シネマトゥデイより引用

愛し合っている最中に息子を事故で失った妻(シャルロット・ゲンズブール)は罪悪感から精神を病んでしまい、セラピストの夫(ウィレム・デフォー)は妻を何とかしようと森の中にあるエデンと呼ぶ山小屋に連れて行って治療を試みるが、事態はますます悪化していき……。


以下、感想です。





正直に書いてしまうと結構退屈してしまいました。
心に全然響かない。いや、前評判通りスゴいショッキングな映像が続くんですよ。ただそこに至るまでの道程に早い段階で飽きちゃいましてねえ。ボク自身が物語の序盤で脱落しちゃったんでクライマックスでアレやコレやあっても特に動じないっていう...。全く入り込んで無かったのでなんとなく目の前でエクストリームな夫婦喧嘩が繰り広げられてるなあ...と思って観てました。見事な映像美って言われてもねえ、白黒とスローにすりゃ雰囲気出ますしね。子供も結構まっすぐ死んでいくし。なんつうか極端にサービス精神が無いのよ。まあ、結果「ふざけんなコノヤロー!!」っていう感想に落ち着きましたよ。


しかしながら観終わって帰りの電車なんかで「観たものの謎」を色々と整理してみると腑に落ちました。


あまりに話がデタラメ、というか都合が良すぎるのでこれって普通の映画と認識して観ちゃダメな映画なんですよ。普通の映画ってのは起承転結があってクライマックスがあってカタルシスを迎えてスッキリ!みたいな映画の事。この映画ってそういう映画じゃない。普通の映画と同じように観ちゃうとでっかい「?」マークと一緒に帰る事になっちゃう。もしくは「ふざけんなコノヤロー!!」ですよ。「他の映画が写実主義の基に描かれた絵画だったらアンチクライスト」は抽象画なのね。ぶっとい筆で力強く、そしてドス黒くカンバスに描かれてるような作品でした。正直ストーリーなんておまけで、細部は気にせず「2時間この絵画の中に入る」という感覚です。で、その抽象画のテーマが「心の深淵」って事なんだと思いました。どこまでこの「心の深淵」に入り込んでいけるかという点が、この映画の評価が分かれるところでしょうね。


「彼」は「彼女」を救う為に森に連れて行きます。彼女が一番怖いという「森」。恐怖と理性的に対処する為に敢えて一番怖い森に入る。そこで起こるあらゆるショッキングな出来事。なんでまたあんなに陰惨な事が起こりまくるのか?つか、誰の心の深淵を覗こうとしてるのか?おそらくこれは「彼」が「彼女」を救う為に森に連れて行くっていう話を使って、実は監督自身の一番恐怖に感じる事、監督の「心の深淵」を探る作品なんだと思います。そりゃあサービス精神なんてある訳無いですよ!監督自身の戦いなんだもの。こっちは入り込むっていうか傍観するしか無いです。そりゃあ「アンチクライスト」っていうタイトルですよ!「彼」と「彼女」がアンチクライストっていう事じゃなくて、監督自身が神と対峙したんですよ。監督が「彼」と「彼女」っていういわば自分の分身を使って「心の深淵」を覗いた結果があのエピローグだから最終的に腑に落ちたんだなあと思いました。


監督自身の「心の深淵」を抽象画のように描ききったこの2時間の作品。監督と共感できる心持ちの方は絶賛するだろうし、良く分からんっていう方がいるのも当然。極めて個人的な映画なんだもの。で、ボクはというと、うん、少なくとも今は良いや。絶望的な風景を既にテレビでガンガン観てしまっているからね。監督が自分と戦ってる映画として観るとなかなか面白いですよ!「人の心の深淵を覗いてみたい」っていう方にはオススメです!





【おまけ】
夫婦喧嘩と言えば志村けんのコント!

アンチクライスト」のいろんな要素を削ぎ落としていったらこうなります(ウソ)。





※本文から漏れた感想(若干ネタばれあり)

  • 冒頭のシーンで三体の人形が映るんだけどその三体の人形の名前が「章」の名前になってます。
  • 旦那さんは結構ヒドイ目に合うけどまあ恐怖とギャグのギリギリのラインですよ。あんなもんまだ良いじゃない!片腕マシンガールなんてあの子の手がマシンガンになっちゃうんだよ!
  • 奥さんのあの行為はたしかに一度観たら一生忘れられないくらいのインパクトはありますよ。なまいきシャルロット!



※    ※    ※


しかしまあ、「なんでこういう作品を作るかね?」と思って色々と調べてみたらこんな記事が。
うつ病ラース・フォン・トリアー監督が仕事できず 2007年5月17日 】※シネマトゥデイより引用

 [シネマトゥデイ映画ニュース] デンマークの鬼才ラース・フォン・トリアー監督が、激しいうつ病にかかり、映画制作が不可能な状態になっていると語った。トリアー監督はデンマークの全国紙「ポリチケン」のインタビューに答え、「常に3つの企画を控えていたのに、何も書けないなんて不思議だ」とコメント。今年はじめに病院でうつ病の治療を受けたと認めた。「うつ病が直るには少なくとも2年くらいかかるというが、様子を見たいと思っている」とのこと。今年中旬から撮影開始を予定していた新作ホラー『アンチクライスト』(原題)も、取り掛かれるかどうかわからないそう。[5月12日 コペンハーゲン

やはり心の深淵を覗く旅だったか!