「ドラえもん 新・のび太と鉄人兵団 〜はばたけ 天使たち〜」

哀しい事が多すぎるので月曜に渋東シネタワーでドラえもん観てきましたよ。やっぱりお客さんは皆無でしたよ。


【あらすじ】※シネマトゥデイより引用

北極からロボットの足と謎の青い球体を持ち帰ったのび太。すると、のび太の家の庭に空からロボットの部品が降ってきた。「鏡面世界」を使って巨大ロボット“ザンダクロス”を完成させたドラえもんのび太だったが、ロボットの持ち主の少女リルルが登場。何と、ザンダクロスとリルルはロボットの星メカトピアからやって来たのだった。


以下、感想。




まず前置きとして、今の「水田わさび版のドラえもん」って結構好きなんですよ。ボクは現在33歳で当然「大山のぶ代版のドラえもん」を観てきてるんですけどね。「水田わさび版のドラえもん」の方が適度にドジでのび太と対等で、「ふたりで一緒に育ってる」感じがするんだよね。だからこの映画を観ても別に過去のドラえもんとの差が苦にならなかったです。だいたい同世代の方々って「大山のぶ代原理主義」なんだよね。「やっぱり大山のぶ代じゃないと!」って、いや、そうなんだけどさ。既にもうこどもの世界では「ドラえもん水田わさび」だし、それで全然良いと思うよ。


次に86年版の「のび太と鉄人兵団」のお話ですよ。86年はボクは7歳でもちろん劇場に観に行きました。今は無き二子玉川園の二子東急っていう映画館でねえ...ポテトチップ臭が充満する劇場内でちびっこたちが主題歌を大合唱!というトランス状態の中で観ましてねえ。もちろんボクもトランス状態でしたがね。
のび太と鉄人兵団」はドラえもんの映画の中でもムチャクチャ好きな作品です。この原作マンガがきっかけでコロコロコミックを買うようになったりしましたしね。なにより純粋に面白い。ドラえもんなのにデカいロボット出てきて悪い奴と戦う。ロボカッコ良い。ラストちょっと感動する。この思い出深い作品をリメイクするってんだからタイミングが合えば行きたいなあとぼんやりと思ってました。で、例の地震ですよ。街がすっかり暗くなっちゃって、精神的にも参ってしまい映画観て一度心をリセットしようと。リセットするに丁度いい映画は...って事でタイミングがばっちりあったのでリメイク版「鉄人兵団」観ましたよ。


ここからようやく本題。
この映画、予想を大きく超える傑作でした!ドラえもんを観た!」というより一本の「ちゃんとした映画」を観たという気分。
最初にインパクトがあるのが、その「絵」なんですよ。線が極端に太い。筆を使って手書きで書いているみたいです。これって物凄く効果的で、この線のおかげで派手なアクションの「迫力」や、線の丸みによる「暖かさ」や「優しさ」がより増していました。まあ、なにせ鉄人兵団は「ロボットもの」ですからね。藤子F先生というよりも、太い線でド迫力のロボットを描いていた永井豪リスペクトもちょっとあるかもね。
また、一方で背景は極端に精密なんですよ。去年の「カラフル」くらいのレベル。アニメのドラえもんの世界観とは思えないくらいホントの都市や街並みを描いています。86年版「鉄人兵団」は、のび太ドラえもんは「ザンダクロス」の操縦を新宿中央公園で練習してるんですよ。で、こっちはなんとなくわかるレベルくらいの背景だったんだけど、今回の「新・鉄人兵団」ではその場所が赤坂見附に変わってます。その赤坂見附の街並みが超リアル。他にも新宿近辺や池袋駅東口駅前など東京の街並みで鉄人兵団との戦いが繰り広げられます。架空のアイテムが実際の街にあったらっていう設定は、こういうロボットものではすごく重要だと思うんですよ。まさかドラえもんの世界観でそれをやるとは思わなかったけどね。背景とキャラの線には驚かされました。


サービス精神が旺盛ってのも良いですよ。こどもが喜びそうな単純なギャグをテンポ良く見せてくれてるのはまあドラえもんとして当然。しかしその一方でザンダクロスが動くシーンは過去の怪獣映画のように手前に家屋を置いてその大きさを表現していたりとか、86年版「鉄人兵団」には無かった「ザンダクロスvs宇宙戦艦の肉弾戦」のカット増えていたりとか、演出はあくまでも大人向け。それでいてドラえもんマニアにはムチャクチャお馴染みのキャラがワンカット登場(スーパーで立ち読みしてるマンガに登場)したりと、マニア心までくすぐる作り。あらゆる対象を捨ててないっていう態度が凄いよ。ホントにワンカットのみだけど福山雅治出てるしね。おかずが多すぎ!


しかし、なにより一番驚いた点は後半の構成が86年版「鉄人兵団」と大幅に変わっていた事なんだよね。86年版ではキャラクター...どころか1アイテムにすぎなかった「ザンダクロス=ジュド」のコンピュータが、今回では物語を引っ張る重要なキャラクターに変更。ボウリングの球みたいなデザインも「カワユス!」と言わざるを得ないビジュアルに変わり、ピッポという名前が付けられてましたよ。この変更が功を奏していて、86年版でも充分深い話なのに更に奥行きのある内容となってました。
ザンダクロスの持ち主であるリルルもコンピューターのピッポもロボットで、人間を蔑んでいて、人類を奴隷化する為に地球にやってきた。しかし地球に来てみると人間に対して訳のわからない事ばかり。リルルとピッポが離れ離れになったらのび太たちは一緒に探してくれるし、怪我をする(=壊れる)としずかちゃんが親身になって看病(=修理)してくれる。なによりのび太たちと一緒にいると楽しい。この気持ちはいったいなんだろう?と。自分たちを心配してくれる人間たちが自分たちの仲間である鉄人兵団の行動でピンチに陥る。地球人を助けるなんてこんなにバカバカしい事は無いと思っていた、しかも「地球人を奴隷化する」という重要な任務をプログラムされている立場でリルルとピッポはいったいどういう行動をとるか...。
こどもに「社会性」を身につけるとっかかりとして一番最初に教えるべき「ともだち(他人)を大事にする。」という重要な事を、変に捻る事もなくど真ん中のエンターテイメントで表現しているという事が素晴らしいです。こどもたちの日常によくここまで難しい話をくみこめたなあ、っていう感想。もちろん藤子F先生の原作が素晴らしいんだけど、今回はこの原作を見事に昇華してました。また、ドラえもんの映画は、絵や声優さん達が変わってもこどもたちに向けてまっすぐに届くように、というか付き添いで来る大人の皆さんにもちゃんと届くように作られているんだなあと感動してしまいましたよ。


今は本当に大変な時期だけど、心が疲れちゃったり世の中が暗く見えたりする人は映画館に行ってこの映画を観てもらいたい。子供向けと思うなかれ。この映画には「愛」と「平和」と「ギャグ」がつまってますよ!まさに今観るべき映画。オススメです!!




※本文から漏れた感想

  • のび太が拳銃(今回はライフルだったけど)構えるポーズはなんか信頼できるね。
  • ピッポが「ボーリングの球」状態の時は穴が三つだけ空いているというビジュアルなのに穴のサイズとか形の変化でちゃんと怒ってるように見える。アニメって凄いね。
  • ザンダクロスの練習シーンは鏡の世界なので赤坂見附の街並みはホントは反転してなきゃいけないんだけどね。別に映画内で赤坂見附とも言ってないんでこれはまあご愛嬌で。
  • しずかちゃんがザンダクロスを操縦した際、誤爆で壊しちゃったビルは86年版では新宿住友ビルだったんだけど、今回は赤坂プリンスホテルでした。3月末で無くなるというのにむごい...。リア充爆発しろ!って事だったんでしょうか。
  • 今回、新キャラのピッポが大活躍するおかげで、86年版と比べて大幅にワリを食ったキャラが1名。ミクロス...。
  • 一個だけ惜しかったのは「ドラえもんが大事な時に慌てて四次元ポケットから道具が出せず、代わりに枕とか目覚まし時計とか出しちゃう」っていうお馴染みのカットが無かった事だ!
  • この映画を渋東シネタワーで観た時、ホスト風の男が二人で観に来てて上映中ずーーっとしゃべってたんだけど、ドラえもんのメインターゲットはこどもだもんね。集中力が無いのはしょうがないよ。