「イップ・マン 序章」

イップ・マン 葉問」の感想の際に「序章も観ろ!」って書いてますからね。もちろん観に行きましたよ!


【あらすじ】※goo映画より引用

1930年代の中国広東省佛山。武術館の師範との戦いに勝ったイップ・マンは、町一番の武術家として知られるようになる。しかし栄華は長く続かなかった。38年に日中戦争が勃発。1年もたたぬうちに佛山は日本軍の占領下となる。日本兵たちに武術を教えることを拒否したイップ・マンは誇りをかけ何度も戦うことになり、空手の名手である日本軍将校三浦と生死をかけた対決をする。

以下、手短に感想。





なぜか続編から公開されてしまったこの作品。もちろん「序章」を観てから「葉問」を観るのが順番としてはあってるんだけど、「葉問」を観てからこの「序章」を観ても別に不都合ってのはなかったですよ。むしろ「葉問」の後に観て良かったかも...と思うところもあるのです。

「序章」の舞台である1930年代の佛山は、それはもうカンフーバカ一代ばかりが集まる街。神保町に本屋、秋葉原電気屋佛山にカンフーってくらいのレベル。そんな中、イップ・マンはまさかの「金持ち」として優雅に暮らしておりました。「葉問」はいきなり貧乏話からスタートするからイップ・マン=貧乏っていうイメージがついていたので結構面食らいましたよ。で、この佛山の街の描き方がスゴく良いんですよ。活気があって華やか。街のみんなの笑顔も絶えないみたいな平和な日々。序盤は道場破り(ギャバン)vsイップ・マンの戦いがメインになっているんだけど、その戦いですらコメディっぽくて「楽しいカンフー映画」の見本!みたいな作りになってます。


それが日中戦争に突入すると一気に街の雰囲気もガラリと変わります。バットマンゴッサムシティみたいな色合い。この戦前の牧歌的なコメディタッチの前半と、戦争に突入してから後半の雰囲気の違いがはっきりしていて観ているこっちも否応なしに緊張感に包まれます。このコントラストは見事。ぜひこの色の違いは劇場で観て頂きたいところ。


で、この「序章」が「葉問」と決定的に違うのは、イップ・マンの詠春拳が明らかに致命傷を与える攻撃をしているところ。それはもう怒りにまかせるという若さと、戦時中っていう時代背景の深刻さからだと思うんだけどね。そりゃ日々の生活に生死がかかってるんだもの、描かれる暴力もエグくなるってもんですわな。それでいてちゃんと「殴った拳の痛み」というものを画で押さえていて表現のバランス感覚が絶妙だなあ...と唸らされます。
こういった激動の時代を乗り越えたからこそ、続編の「葉問」のイップ・マンはあそこまで穏やかでいられたんだと気づかされるんですよ。だから「葉問」→「序章」でも良かったなと思いました。


不満が全く無い訳ではないんですよ。悪役の旧日本軍があんまり悪くないんだよね。極端に悪い「The日本の悪い軍人」ってキャラが1人だけで、後は全体的になんとなく悪い雰囲気っていう。なにより旧日本軍トップの三浦が礼節を重んじる立派な「武道家」として描かれてます。予想以上に日本に気を使った作りになってると思うんだけどなあ。むしろ旧日本軍がヌルいということにがっかりだよ!これなら「葉問」のイギリス人の悪役の方がもっとエグかったですよ。
これは「もしも」なんだけど、「序章」は反日映画っぽくとられてしまう可能性があるので配慮した結果、続編の「葉問」が日本では先に公開されたって事であれば、映画ファンにとって本当の敵は日本国内にいると思うよ。


それはともかく「序章」も「葉問」も両方観るべき映画ですよ。男性とか女性とか関係ありません。誰に対してもオススメ。
戦争なんていうバカでかい時代の波に呑まれ、自分にはいったい何ができるのか?イップ・マンには詠春拳しか無いんです。それが彼の大きな悩みであり唯一の解決方法でもある。この作品は安易にイップ・マンvs旧日本軍の軍人のカンフー映画ってだけではなく、「1人の男」vs「戦争」というところまで描いているから素晴らしいし泣けてくるのでした。






【おまけ】
「序章」の見どころである「イップ・マンvs空手黒帯10人」っていうのは、既に香港映画史に残る名シーンになっているようで結構パロディ化されてました。




※本文から漏れた感想

  • 「序章」を観ると「葉問」をもう一回観たくなる。しかもすぐ隣のシアターでやってる。そりゃ観るよねえ。で、「葉問」を観るとエンディングの後に「序章」の予告編が入ってる。その予告編観ちゃったらまた「序章」も観るよねえ、っていう円環構造に取り込まれる危険性あり!
  • 「イップ・マン」とは直接関係ないんだけどね。ご家族で観に来てた方々がいらっしゃったんですよ。小学校1、2年くらいのお子さんが前の方の真ん中に座ってて「ああ、こどもが映画館でイップ・マンを観るなんて、これで日本の未来も安泰だ」なんて思ってたんですが、予告編で「冷たい熱帯魚」がかかっちゃって、予告編が終わる絶妙なタイミングで「・・・怖い!」っておっきい声で言ってたのがツボでした。しかもその後の予告編が「アンチクライスト」っていう。
  • 先日tada-woさんとお会いした時に薦められた「ドニー・イェン アクションブック」という本を読んでるんですが、それはもう素晴らしい内容なので読み終わったら感想書きます。

ドニー・イェン アクション・ブック

ドニー・イェン アクション・ブック