「桐島、部活やめるってよ」

「ザ・マペッツ」を観たお台場でこの映画のチラシ見て知ったんですけど、公開されるや否や「映画好きの好事家」から「最近見た映画『BECK』以来」みたいな方まで幅広く好評なこの映画、とりあえず観て参りました。本来なら前売りを買ってる「おおかみこども〜」から観ないといけないんだろうけど、その前売券がどっかいっちゃってる以上しょうがない。

【あらすじ】※シネマトゥデイより引用

とある田舎町の県立高校映画部に所属する前田涼也(神木隆之介)は、クラスの中では地味で目立たないものの、映画に対する情熱が人一倍強い人物だった。そんな彼の学校の生徒たちは、金曜日の放課後、いつもと変わらず部活に励み、一方暇を持て余す帰宅部がバスケに興じるなど、それぞれの日常を過ごしていた。ある日、学校で一番人気があるバレー部のキャプテン桐島が退部。それをきっかけに、各部やクラスの人間関係に動揺が広がり始めていく。

【予告編】


以下、壮絶にネタバレしながら感想。原作は未読です。






あー、マジで学校ってめんどくさいトコだな!!
率直な感想を言えばこんな感じです。この辺りは後述しますが、面白かったと思いますよ。何度と無く繰り返される「金曜日」には、ボクが苦手な「テクニックだけを見せる映画」かと思い、しゃらくせえなあ...とも感じながら観てました。しかし、物語の空気を問答無用で変え、観客を一気に味方に付けるキャラクター「映画部のあいつ(リッキー・ホイ似)」の登場にまんまと乗ってしまいました。神木君の同級生、「映画部のあいつ」の台詞一つ一つには一切の間違いが無いので一気に惹き込まれます。こうやって映画部の面々がチャーミングに見えてくると、不思議なものでクラスメートや他の部活の人間もキャラクターの分別がはっきりと出てくるんですよね。あの辺りものスゴく丁寧に作られていて素晴らしいです。


同じ出来事を違う視点で描くという手法のストーリーは、ボクがわかる限りで安野モヨコ作「ラブ・マスターX」くらいしか知らないですけど、そんなテクニックはともかく非常に丁寧な映画だったと思います。おちゃらけていないからかもしれません。例えば天才的なデザインセンスを持っている高校生とか、喧嘩最強の高校生が出てくるような、高校の設定に誇張が過ぎる映画ばっかりの中、久々にリアリティ溢れる高校生活を描いている作品なんじゃないでしょうか。童夢」以前の、初期の大友克洋作品にありそうなお話でした。何も無い。あるのは関係性のみ、みたいな。恐らくボクの人生で観た映画の中でもトップクラスに「何も起こらない映画」です。それでいて一瞬も飽きる事無く観れたと言う事は、それだけ高校生活の「あの空気」を再現できていたからだと思います。


この映画の最大のキモは「視線」だと思うんですよ。
それは「見る」でも「観る」でも「覗く」でも当てはまるんですが、とにかく主役から脇役まで、登場人物たちの「他者に対する視線」がこの物語の全てです。映画部の先生の言葉をちょっとお借りするのであれば「自分の半径1メートルの世界」と「その外の世界」の話。「青春」なんてものは「自分とその他の世界とのズレに気付く季節」で、仲間と始終つるんでいたって常に「ここではないどこか」の安住の地を探している。
「誰かを覗いてしまう」という事は、自分が「その外の世界」から閉め出されているという事であり、決してその世界に参加できないという事。
この映画の素晴らしい点は、誰もが感じたであろう高校生活の「あの空気(映画でも個人の体験でも良いんですが、)」は、全て「視線」が生み出している。と指し示している点にあると思います。彼らの視線がそのまま映画の強度として現れているこの作品は、紛う事無き青春映画の決定版です。
あー、マジで学校めんどくさいわ。
学校なんていう特に狭い世界では、目は口ほどにモノを言いますね。「空気読め!」なんて風潮も、まず他者の視線があってからこそでしょうし。この映画の登場人物達は皆さん演技力が素晴らしくて、あらゆる視線をグサグサと観客に突き刺してくるので観了後ぐったりしますよ。「おまたー!」なんてなんの考えもなしに軽く言った言葉があらぬ方向に届いちゃうシーンとかね。即死レベルの有毒性ですよ!目だけで素晴らしいんですから「台詞っていったいなんなんだろうね...」とも思っちゃいました。


惜しむらくはテンションがガン上がりするシーン以降にもうちょい話が進んじゃうとこで、割とグッときた後で極々当たり前の説教みたいな内容のシーンを見せられてしまうので、こっちも「お、おう...!」となってしまいます。それまで丁寧に面白く見せてきたのにラスト、急にモタモタしてしまったのは原作との兼ね合いがあるかどうかちょっとワカリマセンが、とにかく冷水はぶっかけられましたよ。あと、全編に渡ってただの学生生活「あるあるネタでしか無く、自分が学生生活のどのポジションに所属していても共感できる内容となっているのでそういう意味では卑怯な話でもあると思います。


しかしながら、これがみんな大嫌いでお馴染みの「テレビ局映画」で、シネコンをメインに展開されているというのが痛快じゃないですか。有名俳優(子役除く)無し、音楽無し、大規模ロケ無しのアイデア一発勝負。そんな無謀な企画にメジャー会社とテレビ局がお金出して作り、面白い映画を作ったって事に快哉を叫ばざるを得ません。極めて地味ですがオススメ。こういう映画はすぐ終わっちゃいますからね。なるべく早めに観に行った方が良いですよ!






【おまけ】
高校生活と言えば「日常」

中学の時の合唱部の「時にはっ!なぜかっ!」って歌い方、マジで苦手だったー!キラキラしちゃってさあ!







※本文から漏れた感想

  • この映画スゲえ!って聴いちゃってたから「マグノリア」くらいすんのかと思ったけど、その辺りは肩すかし感あった。
  • 実在の名称を使うのは映画として「誠実」だと思う。映画内で「映画秘宝」が出たのは初めて観た。
  • 野球部辞めた彼は昭和のスターみたいな顔だったね。
  • 屋上のクライマックスよりも、野球部のキャプテンのラストの下りの方が実はグッときて泣いてた。
  • 大後さんは最高だ。
  • 悪い奴すら出てこないってのは高校生活の描き方を徹底してると思う。ヒロキの彼女は悪い子っていうよりもああいう子、という感じ。
  • 感想書きながら、自分の高校生活の話でも出てくるかなあと思ってたんだけど最後まで出なかった。つまりはそれくらい何も無い高校生活を送っていたのだろう。