「glee シーズン1」

12月はいろんな方が2011年に観た映画のランキングを発表してましたねえ。「エンジェルウォーズ」「ブラックスワン」「モテキ」「ミッション:8ミニッツ」あたりがはっきりと賛否の別れた映画ってとこでしょうか。つか、どっちにしろ名前が挙がるだけ良いですよ!ボクが自分の映画ランキング3位に入れた「glee/グリー ザ・コンサート3Dムービー」を挙げている人がほぼいないんです!100本近く観ている方々のランキングにすら名前が出てこない!唯一ランキングに入れていたのがこちらの方だけ(しかも「1位」という信頼できる順位付け)という惨憺たる状況。上映期間が、延長した上で約1ヶ月&地上波では無いテレビドラマの映画化というのがネックとなってるのはしょうがないけどこれはホントにオススメなんですよ!
今回はこの映画の元となったテレビドラマ「glee」の本編の感想です。


【あらすじ】※Wikipediaより引用

オハイオの田舎町にあるウィリアム・マッキンリー高校のグリークラブは廃部の危機を迎えていた。新任教師ウィル・シュースターは、自分が在籍していた当時の栄光を取り戻すべく、新生グリークラブ「ニュー・ディレクションズ!」の顧問となる。 各種マイノリティー揃いの部員たちは負け犬のレッテルを貼られ、校内ではいじめの対象だったが、ウィルや仲間たちと信頼を築きながら、地区大会や州大会を目指していく。

【予告編】

既に日本で放送が始まってから2年以上も経っていて「いまさら!」感がありますが、以下、感想です。






元々、子供の頃から「ミュージカル」というジャンルが好きだったんだと思います。「メリー・ポピンズ」とか「雨に唄えば」とか「サウンド・オブ・ミュージック」とか。個人的オールタイムベストの「ブルース・ブラザーズ」も「ミュージカル」みたいなもんですな。そんなもんだからこの「glee」もすんなりと楽しめてしまったんですよ。いわゆるアメリカの学園ドラマの定石を踏みながら、内容や表現方法に関しては従来の作品よりも一歩踏み込んでいる感じなのです。


例えば、アメリカの学園ドラマに関してはっきりと押さえておかないといけない点として「階級と地位」ってのがあります。アメフト部とチアリーダーを頂点にした階級社会。アメリカの高校にはクラスが無いですからね。結局「同じ穴のムジナ」的な者同士が集まる。同じグループが集まりながらも違うグループと共存していかねばならない。もちろんその階級の間にはいじめや差別があり、また「ロミオとジュリエット」みたいな階級差恋愛なんてのもある。学園=社会の縮図な訳です。しかも差別やマイノリティ問題を扱うにしても、普通の社会派ドラマよりも学園ドラマの方がポップに表現できるという利点がある。

この「glee」に関してもその辺りは同じ。主要な登場人物たちにそれぞれ問題があるのです。自己中に童貞にゴス。ゲイにデブに障害者。物語を動かすのはマイノリティ。ただ、一つだけ取り柄があって、それはみんな「歌」が好きだという事。彼らの歌にはパワーがある。それぞれ問題はあるだろうが歌声には間違いが無く、歌っているときの表情はみんな魅力的。ボクが最初にやられてしまったのはココなのです。圧倒的説得力。
そして、登場人物達はそれぞれが所属する「階級」にデリケート。アメフト部なのに歌が好きだから合唱部に入る男の子は、それまで花形スターだった自分の地位を失う事を恐れる。ゲイの男の子や太った女の子は逆に合唱部からチアリーディング部に入る事により表現する本当の楽しさに気付く。なにより「学校の中の最下層とはいえ、オハイオの片田舎にあるこの学校自体がそもそも最下層だ!」という諦観の面もある。同じ最下層なら全力を尽くす。この了見が良い!「glee」はそれぞれのキャラが見事に機能しているので他のドラマにありがちな「物語の進行上生じる【都合の良さ】」という不快感が無いのです。歌が上手くてそれぞれに難があるキャラクターたちが縦横無尽に動く。非常に良く出来た作品だと思います。


演じる役者陣も製作陣のかなり難しい要望に応えています。歌が上手くてダンスが出来て演技もできてイイ顔。選び抜かれたキャスティングが素晴らしいです。中でも合唱部を率いる顧問のウィル(マシュー・モリソン)と、合唱部の活動を徹底的に妨害して潰そうとするスー先生(ジェーン・リンチ)。このドラマに出てくる先生も決して聖人では無いという事。たまに生徒達を間違った方向に指導したりする。綺麗事では絶対に終わらせないという姿勢に好感が持てます。
特にスー先生はねえ...まあ、とにかくスゴいキャラですよ。

なんつうか、有史に残る名悪役。決して間違っていないという態度で発せられる罵詈雑言の数々は逆にむしろスカッとさせられるのです。啖呵の切り方が絶妙!で、何が恐ろしいってボクが観て3位にまで挙げた「glee/グリー ザ・コンサート3Dムービー」にはこの2人の先生が一切出てこないという事。すげえよ!余力を残した上であのクオリティの映画だったのかよ!


色々と書きましたが、なんだかんだ言ってやっぱり一番の魅力は「曲」。そしてその曲の持つ力を存分に発揮するドラマの構成が抜群なんだと思います。
1話の中にだいたい2、3個の問題が同時進行で起こるのですが、その問題がそれぞれ複雑に絡み合った結果、絶妙のタイミングでかかる曲が全ての問題の「解答」だったりする。こういった作りに製作陣の「曲」に対するリスペクトを感じるのです。丁寧にその曲のテーマを分析して再構築する。glee」には新旧問わず色々な曲がかかるのですが、どれも新鮮に感じられるのは再構築して改めてその曲の持つ素晴らしさを教えてくれるからだと思います。一話につき3、4曲かかるのにも関わらず、その間、物語が停滞しないってのも優れた脚本の為せる技。「こんなものを作っとけばガキは食いつくだろう。」と言う考えではないのです。これは正しいサービス精神。その問題ってのも結構深刻な問題なんですけどね。「ドラッグ」とか「妊娠」とか「いじめ」とか「ハンディキャップを持つ人との付き合い方」とか。そんな深刻な問題も軽妙洒脱に描くので不必要に罪悪感を感じる事もありません。つか、そもそも存在するんだから描くべきなんだよね。


いろいろ褒めましたが、基本やっぱりザコ集団ですから。「トライ&エラー」の繰り返しでちょっとずつしか成長しないんですよ。でも確実に成長を見せてくれる。人生は思い通りにはいかないね。欲しいものが手に入るとは限らない。でも、やってみれば必要なものが見つかるかも。登場人物達は「合唱部」という高校生活では最下層と思われる集団の中で「音楽」という素晴らしいアイテムを使って「見事なエンターテイメント」を見せてくれます。学園ドラマのその次の表現へ。ちょうど4月からEテレで放送するとの事なので、まずは気軽に観てみてはいかがでしょう。




※本編から溢れた感想。

  • マイノリティをバカにする台詞が普通にあるんだよね。建前で生きる世間ではなかなかお目にかかれない。
  • 高校生の描き方に一歩踏み込んでいるようだけど、よく考えたらアメリカの学園ドラマの古典的セオリー通り。チアリーダーのトップには必ず取り巻きが二人いるとか、シリアスとギャグが混在してるとか、登場人物達がとにかくしゃべりまくるとか。チアリーダー=悪役、だけどホントは裏で一生懸命努力してるっていう表現もキルスティン・ダンストの「チアーズ」以降にひろまった解釈だし。
  • 学園ドラマってテンポがいいね。チャイム一つで場面転換できる。
  • 合唱部が歌ってる曲が心情を表しているので、はっきりミュージカルとも言い切れないんだよね...。
  • 「Jessie's girl」の曲の真っ直ぐさよ!ジェシーの彼女を奪いたいっていう曲だったのね。
  • 自分の学校に合唱部があったら観に行くかどうかねえ...。

Special Thanks to THEMAGNIFICENT6 様
         uhgan 様