「トラウマ映画館」

トラウマ映画館

トラウマ映画館

映画評論家、町山智浩さんの新作「トラウマ映画館」を読みました。今回はこの本の感想です。


映画評論の本として町山さんの「映画の見方がわかる本」シリーズは傑作だと思ってるんですが、作品に対するアプローチは違えどこの「トラウマ映画館」もまた非常に面白い内容でした。この本で紹介されている25本の作品は、映画史に燦然と輝く...というか、むしろ異彩をバンバン放っているような不気味な話だらけ。
まさに「オマエにトラウマを与える為だけに作ったんだよ!」と言わんばかりの作品群。
昔のテレビってのは無邪気なんだか成長過程だったんだか、ホント容赦なかったんだね。そりゃあこういう気持ち悪い映画を子どもの頃にテレビで観たらトラウマにもなりますわ。


単にストーリーを追うだけでなく、公開された時期の時代背景や監督の出自など「作品の存在意義」を俯瞰で提示するという町山さんの評論スタイルはいつも通り。でも今回はこのいつものスタイルに町山さんご自身の映画体験も織り交ぜながら語られるので、映画の話を読んでいるのに町山さんの子ども時代が浮かび上がってくるという不思議な作りになっています。だから後書きまで通して読むと、成程確かにこれは「町山さんが誰に捧げた本であるか?」というのもわかって面白いです。いろんな愛が溢れてる本ですよ、これは。


ボクは町山さんの映画評論を読むたび、いつもゾッとさせられてるんですよ。
遥か昔に公開された、かろうじて観た人の心に傷跡を残す作品群。「へ〜、そんな気持ち悪い作品もあったんだねえ...。」なんて呑気に読んでいくと、町山さんはいつも最後には必ず読み手を映画館の外に叩き出すんですよ。この叩き出しっぷりにいつもゾッとさせられています。
出だしこそ映画の存在意義を具体的にわかりやすく教えてくれますよ。でも最終的には「この作品が描いている事は、今自分たちが生きているこの【現実】に帰結する。」という語り口。
過去を語って現代に時空を戻し、未来を読み手に任せる文体。
暗闇に鈍く光る怪しい作品を観客(読者)に見せた上で、バッと劇場後ろの扉を開けて「現実」という光を見せる。あの「映画を観終わった後に劇場を出て浴びる光」を本で疑似体験できるので、ボクはいつも町山さんの本を読んでいるんだなあと再確認できました。


取り上げてる映画はどマイナーではありますが見事な映画評論本です。何かを暗示させるような不穏な装丁も含めて素晴らしい。諸手あげてオススメです!


難点を上げとくと、ここに取り上げてる作品はどれもそんなに観る機会に恵まれていないという事。がっつりと集中して読むとなんだか観た気になってしまうかもしれません。で、ゆくゆく思いだす際に観たんだか観てないんだ忘れたなんて事も起こるかもしれませんよ!人のトラウマが新たに別のトラウマを生むという可能性あり!なのでこの本を読んで興味を持ったらいろんな手を使ってちゃんと自分で観るという事をオススメしますよ!






【おまけ】
ここでボクのトラウマ映画のお話を一つ。
ハッキリと覚えてるトラウマ映画は大林宣彦監督の「HOUSE」なんですよ。これは次回の日記に書きます。
もう一本あって、「エレベーターマン」という作品。これ映画じゃないんだけどね。ホントに怖かったんですこれ。
4歳の時に8時くらいのテレビ東京ですげえ面白いバラエティ番組を観てたんですよ。どういう内容だったか覚えてないけどとにかくゲラゲラ笑ってたのは覚えてる。で、途中お母さんが風呂に入って1人でこの番組を観てましてね。で、一通り爆笑した後に1コーナー始まって雰囲気が変わったんですよ。荒い画像でねえ...。

古いビル。

暗いエレベーターホールにサラリーマン風の男が1人。

エレベーターに乗りこんで4階に向かおうとすると、既に黒い男が乗っており、その男は13階のボタンを押す。

するとエレベーターは猛スピードで上昇し...。

たった三分しかなくて一瞬で終わったんだけど、この映像観て怖さのあまり号泣!さっきまでゲラゲラ笑ってたのにその落差にも恐怖!なんだこれ!?
この短編の映画のおかげでエレベーターがしばらく乗れませんでした。うちの母親なんか突然泣き出したので「蜂にでも刺されたのかと思った」らしく風呂から飛んできてました。

でも、この映像がいったいなんなのかさっぱりわからない。あまりにも短い。バラエティ番組だってのになんであんなに怖い映像が突然始まったのかも謎。ヒントが少なすぎるんですよ。この話をしても誰も知らないんです。ディティールはハッキリ覚えてるのに何の番組だったかさっぱり。一時期「伊集院光 日曜日の秘密基地」の「ヒミツキッチの穴」に投稿しようかと思った時期もありました。


このモヤモヤした感じが22歳くらいまで続きましてねえ。
ある日、渋谷のHMVの四階DVDコーナーをブラブラしてたら黒いパッケージのDVDが目に飛び込んできたんですよ。

「お茶の子博士のHORROR THEATER」

もしや!と思って即買い。家に帰って観てみるとチャプターに「エレベーターマン」の文字が!これだよこれ!!!
どうやらボクが4歳の時に観てたバラエティ番組ってのはテレビ東京で放送していた「もんもんドラエティ」という番組で、ボクが恐怖におののいていたあの映画は「お茶の子博士のホラーシアター」というミニコーナーで放送されてた短編だったのでした。たまたまわかったトラウマ映画、久々に観てもね、やっぱ怖かったよ...。監督が若い頃の「手塚眞」だったとは!



ちなみにこの「お茶の子シアター」。あまりにもエグくてクレームがハンパなかったそうな。さもありなん!



「エレベーターマン」はちょっと前までYOUTUBEに合ったんですが、ここに貼ろうと思ったら既に無くなってたよ...。



※本編に漏れた感想
中学校の時に地元の図書館で「映画宝島 地獄のハリウッド!」っていう本を読んで、なんか読んじゃいけない本を読んだ気持ちになった覚えがあるんだよね。「ウォルト・ディズニーは極右で反日だった」みたいな事が書いてあって。あのディズニーが!!そんなバカな!!とか思った訳ですよ。中学生でしたから。で、スゲエ本だなあと覚えてたんだけど、その本を町山さんが編集してたって事をずいぶん後から知ったんですよ。ある意味町山さんこそボクのトラウマの元凶でもあるんですよ!

あ、ちなみにその「映画宝島 地獄のハリウッド!」という本は「トラウマ映画館」購入をきっかけに思いだしたんでネットで買わせて頂きました。20年の時を経て再読しようかと。