「冷たい熱帯魚」

話題作「冷たい熱帯魚」をちょっと前に観てきました。1日4回の上映が全て満席&立ち見っていう驚異的なヒット作。上映館を増やしてもテアトル新宿の客足がそんなに落ちなかったっていうのはちょっとビックリ。

【あらすじ】※シネマトゥデイより引用

熱帯魚店を営んでいる社本(吹越満)と妻の関係はすでに冷え切っており、家庭は不協和音を奏でていた。ある日、彼は人当たりが良く面倒見のいい同業者の村田と知り合い、やがて親しく付き合うようになる。だが、実は村田こそが周りの人間の命を奪う連続殺人犯だと社本が気付いたときはすでに遅く、取り返しのつかない状況に陥っていた。


以下、感想です。






非常に気持ち良い作品でした!何が気持ち良いって、その「潔さ」ですよ。「観た人がそれぞれこの映画を楽しんでくれれば良いな。」的な最大公約数の満足度を一切狙ってないところが潔くて気持ち良かったです。ものすごくシンプル。だからこれ観て「嫌い!」とか「腹が立つ!」とかいう人がいるのも当たり前。はなからそういう風に作ってあるんだもの。ハマらなかった人をどんどん切り捨てて行く疾走感を感じました。で、最後まで楽しめちゃった人には「傑作だ!」とも言わせてしまうんでしょうね。


とにかく出演陣が全員素晴らしいですよ。欠点というか、ちょっと不出来なところすら魅力となって映っちゃってるんだもの。園子温監督の演出力は相当なものですよ。「過剰な演技」こそ園子温ワールドだね。ありゃもう様式美ですよ。
でんでんは本当にスゴいです。滑舌悪いんですよ。でもそこが良いんです!でんでん演じる「村田さん」が野太い声で相手をまくしたてるシーンなんて、ありゃ台詞っていうかラウドロックです。何言ってるかわかるかわからないかのギリギリ。主体性の無い主人公「社本」がどんどん追い込まれていくのもわかります。言ってる事はムチャクチャなんだけど、言うとおりにしないとなんか大変な事になるって感じが、村田のあのリズム&暴力によってよく出てました。これ和田アキコさんに対するあだ名だったね。


村田のやってる行為ってのがムチャクチャで、それこそ「ボデーを透明にする」んだけど、そのシーンをちゃんと映してるってのが素晴らしいよ。しかも一番陰惨なシーンが爆笑っていう見事な演出。行為自体はすげえ真面目だし狂ってる。その姿が「滑稽」だっていうのはものすごく重要なテーマだと思いました。俯瞰して観ると非常にバカバカしい。ブラックな内容で進むのかと思いきや、まさかメインどころにコメディの要素まで入ってるとは思わなかったよ!


もちろん具体的には書かないけど、村田さんの一連の台詞って、全部「人間の欲望」の真実を忠実にしゃべってるんだよなあ。ラストのくだりなんて「ダークナイト」のジョーカーが乗り移っているようでした。主人公に対して観客がなんとなく思ってた事を村田さんのがなりによって全部バラす。上っ面だけで生きてきた主人公、社本が他人に真実を突き付けられた結果に起こした行動。あのシーンで起こるカタルシスは秀逸です。
観終わった後、【村田さんに「ダークナイト」のジョーカーの「犯罪やり終わって超気持ち良い!」的なカット(パトカーから身を乗り出して風を浴びるカットみたいなやつ)が一つでもありゃあ良かったのに...。】とも思ったんですが、今こうやって感想を書いてるうちに【まあ必要ないわな!】と考えを改めました。そこまでダークヒーローにする必要もねえな。むしろ無い方がセコさが強調されてて良いね。


まあ、この映画の面白さについては他の人が何倍も上手く書いてるので感想はここら辺にしときまして、この映画を観て思った事を一つ。

奇しくも同時期に「ワラライフ!!」が公開されとる訳ですよ。ボクが「ワラライフ!!」を観に行った時はお客さんが10人いなかったんです。「100%善意の人間」しか出てこない「ワラライフ!!」がスカスカで、「100%悪意の(若しくは自己中心的な)人間」しか出てこない「冷たい熱帯魚」が毎回満席という結果は、今後の映画界の目指すべき道を指し示す重要な出来事では無いでしょうか。 観客がいまどういう作品を求めているか?さすがにいつまでも「セカチュー」とかの「お涙頂戴もの」でヒットを狙うってのは無しでしょう。奇しくも去年「悪人」とか「告白」とかブラックな作品がヒットした事だし、「悪」という行為を、まさに映画でしかできない針の振り切り方で表現していく映画が作られていけばお客さんも映画館に戻って来るんじゃないかなあと思いました。
そもそも「善意」とか「お涙頂戴」とかなんてのはリビングのTVみたいな「明るい所」で映える作品ですよ。映画館は暗闇なんですよ。「暗闇」だからこそ映える作品ってのがあって、んな事は観客もちゃんとわかってる。客が入らないのは「明るい所」で作って客に観せてれば良いような作品を「暗闇」で公開してるからでしょ。観客が暗闇に何を求めてるか?っていう事がわかってる作品が良い結果を生むんだと思いますよ。
ボクは「冷たい熱帯魚」と「ワラライフ!!」の両方楽しめました。片方しか観てない方は是非どっちも観て欲しい。対立構造として非常に面白い。どっちか観たなら片方も間違いなくオススメです!で、観たら間違いなくどっちかをボロクソ言うと思いますよ!




【おまけ】
アイドルとしての「でんでん」が存分に楽しめる映像。映画祭の感想を聴かれ、「食べたご飯が美味しかった」っていうお話。
フルスロットルのカワユサに萌えてしまえ!



村田さんオンステージ。ラストのラストでまさかの名前間違え!萌え!




※本文から漏れた感想

  • わらの犬よろしく割れためがねをかけて暴れるのかと思ったけど違ったね。
  • 村田さんのカミさんみたいに、強い男のそばにいる事で生き抜くっていう女性って存在するよね。井筒監督の映画にもよく出てきてた。
  • この映画でボクが一番恐怖に感じたのが黒沢あすかが若干「満島ひかり」に似ていたっていう事。 園子温監督のなにか深い「業」のようなものを感じました...。