「ベオグラード1999」

今回は「ベオグラード1999」というドキュメンタリー作品の感想です。左翼の監督が撮った右翼のお話。
ちなみに「ヤマト」観終わった流れで観ました。「右」曲がり繋がりで。

あらすじ※goo映画より引用

時は1999年。平成天皇の在位十年記念式典が行われ、日の丸と君が代が国旗・国歌として法制化され、日本国内のナショナリズムが異様に高揚してきていた時期。金子遊監督は自分の内側にも芽生えはじめていた、「内なるナショナリズム」の問題を探るために、ビデオカメラを持ってフィールドワークを開始。そんな折、バビロン音楽祭に出演する恋人の姿を16ミリフィルムに収めるため、イラク戦争前のバグダッドへ入ることに。恋人はそれがきっかけで新右翼一水会」の事務局で働きだし、当時「一水会」の書記長だった木村三浩に急速に接近していくことになる。

そもそもお恥ずかしい話ではありますが、ボクはあんまり政治に関しては特に主義主張も無いんですよ。ただ「右翼」「左翼」という思想があるっていう事には非常に興味があって、いろいろ本は読んだりはしてました。興味ってのは「なんでこの人たちは『憂国』というゴール地点では同じなのにプロセスがこうも違うんだろう?」って部分です。自分の中にも右翼左翼に関しては思ってる事があって、右翼に対しては「何でもかんでも『天皇陛下万歳!』つって、それで景気が良くなるのかよ!」と思ってたり、左翼に関しては「昔の若者は『安保反対!』つってぎゃんぎゃんやってたけど、結局その若者がおっさんおばさんになった現代はホントにろくでもない事ばかりだな!」と思ってます。
他にも自分の中にある右翼左翼の考えに関しては色々ありますがここでは割愛。主義主張に関しては詳しいに人に任せて、ここでは単なるドキュメンタリー好きが観たこの映画の感想ってのを書いてみますよ。




なにげに2回も観てるんですが、2回目は本作の金子遊監督と「アヒルの子」小野さやか監督のトークショーがある回でした。観終わった後に監督とお話しさせて頂く機会(a.k.a.飲み会)がありまして、その場で既に監督ご本人に直接色々と感想は言ってるんですが、これはなかなか面白いドキュメンタリーでしたよ。監督はこの作品を「ドキュメンタリーではなくシネマエッセイです。」とおっしゃってましたがいえいえ立派なドキュメンタリーでした。


通して観ると「何者かになりたい人たちの映画」でしたね。その中で思い通りの位置に行けた人もあり、違う道を歩む人もあり、一貫して変わってない人あり、絶望して死を選ぶ人あり...。


数年前に自殺で亡くなった彼女についてのモノローグからこの映画は始まります。歌が好きだった彼女が政治団体一水会」に入って紆余曲折あった上に自殺した理由を、1999年に撮った映像の中から探していこうというお話。映画の出だしとしては相当面白いです。このシーン、彼女がどうやって自殺したかって部分に編集でピー音が入るんですよ。東京地方裁判所から止められたとの事。遺族がこの部分を嫌がったそうだけど、遺族の方々には申し訳ないがそのピー音が逆にこのシーン全体のアクセントになっちゃってるんだよね。何か不穏な感じが冒頭からします。さらっと流した方が遺族の方々には良かったのかもね。「安易に隠す事の無力さ」がこんなシンプルな部分でも出ちゃってるのが面白いです。


さて、映像に映ってるのは1999年の日本ですよ。新宿駅前の風景とか既に懐かしさを感じます。「21世紀まであと350日」なんて電光掲示板が奥に映ってるところなんか抜群の説得力がありました。10年ひと昔とはよく言ったもんですね。20世紀末の真空パックロフトプラスワンの後ろの壁がまだリリーフランキーさんの絵じゃない時代です!雨宮処凛さんがまだ右翼の時代です!ボクはまったく意識した事なかったんだけど、どうやら右翼左翼の間では1999年っていうのは日本がぐんと右傾化した年らしいですよ。そんな中「新右翼」と位置づけされた「一水会」という政治団体新宿駅前で演説を行ったりアメリカ大使館前でデモを行ったりします。


この「新宿駅前での演説」「アメリカ大使館前でのデモ」がなかなか興味深かったですよ。監督の撮る画が一歩引いた感じというか、被写体を突き放しているようにも見えました。学ランを着て演説している若者、これがまた良い湯加減で気持ちよさそうに演説してるんですよ。大音量で自分の意見を言う人の顔ってたいそう気持ち良さそうに見えるね。別に聴いてようが聴いて無かろうがあんまり関係ないみたいだしね。アメリカ大使館前でのデモも、行進して演説してシュプレヒコールしておしくらまんじゅうして...って物凄く段取り良いデモ、悪く言えば完全に形式化したデモに見えました。自分に「政治に関する主義主張」が無かったからかもと思ったけど、これは違うね。一重に監督が左翼だからって事だからだと思うよ。右翼の監督が撮ってたら演説もデモももっとカッコ良く撮るだろうよ。考えが違う人が撮ってるから、単なる右翼のプロパガンダになってないところが良いよ。ま、監督の編集が上手いってのもあるけどね。
面白いと思ったところ、もう一個あってね。アメリカ大使館前で先輩が演説しているところで拡声マイクを持つ学ランを着た若者(新宿駅前で演説していた若者と同一人物)が完全に先輩の演説聴いてないで上の空っていう...。うん、すごく良いよ!その油断してる感じ!


話は一水会木村三浩さんの活動を中心に進んでいきます。失礼ながら親しみを込めて書くと非常に気さくで茶目っ気のあるおじさんです。でもひとたびマイクを持つと演説が抜群に上手い。頭の回転の速さがにじみ出てる。話が面白い人ってのは魅力的ですわな。映画の後半はこの気さくで話の面白い茶目っ気のあるおじさんが東欧のセルビア共和国に渡り、政府の要人と会談していく事でどんどん権力を持っていく様を如実に描いていました。この辺りが非常にドラマチックで面白い!人が力をつけていく瞬間をよくあそこまでわかりやすく撮っていたなあと感心しました。一方その頃、右翼歴10何年みたいな人がパトカーにビビりながら歌舞伎町に無断でポスター貼ってるシーンが挟み込まれてたりとかね。構成がホント上手いです。


構成に関して、他にも面白い!と思ったところがあるんですよ。
木村さんはネット右翼に2ちゃんとかで「あいつは在日朝鮮人だ!」なんて事を言われてたりする。木村さんは違うって否定してるんだけどね。
その後、セルビアに渡って民兵をやってるセルビア人と会食するシーンがある。「国を守る」って気持ちでは木村さんもセルビア人のおじさんも同じ。で、木村さんがポロっと「やっぱり(自分に流れる)血が大事だ云々」みたいな話をするんだけど、セルビア人のおじさんは「うちらの住むこの辺りは15世紀くらいからもうぐちゃぐちゃ。自分の先祖がロシアから来てるのか違うところから来てるのかもはやわからないから血なんてどうでも良い。一番大事なのは精神だ!」なんて言われて木村さんがちょっとしょんぼり...とか、なかなか見ものです。
あと、セルビアに行く飛行機内で木村さんが自分のファッションについて語ります。「何着てたって別に気にならない。小ざっぱりしてれば問題ない。」と言っていた木村さんがラストシーンではちょっと綺麗な格好になってる辺りとかね。「アラビアのロレンス」っぽいと思ったんだけど言いすぎですかね。権力を持っちゃった人がどうなるか、みたいな。
こういったあたりの伏線の貼り方の上手さには後で気付かされました。


一方、彼女の突然の死を監督自身がどう受け止めるか?というもう一方のテーマも同時に進みます。ここにも無意識ははっきりとありました。監督自身にあったと思います。もう既にこの世にはいないんだけど、映像の中に残っている彼女はどのカットも可愛らしいんですよ。他の人たちが映ってるカットとは明らかに色が違ってましたね。たぶん監督の気持ちが入ってる分魅力的に映ってるんだと思います。「これは彼女に対する愛の映画だった。」みたいな感想も見かけたけど確かに納得できる感想です。

ラスト。彼女の死を受け止める為に、監督は一水会代表となった木村三浩さんにインタビューに向かいます。

そこで監督が見たもの感じたもの...。

答えは出ます。でも監督には意外な結果だったかもしれません。ボクにも意外でした。

これはキモだから書きません。是非この予想外の展開を劇場で観て欲しいなあ!


敢えて不満を言えば10年前と今で社会情勢が決定的に変わった瞬間である「9.11」をモノローグで処理しちゃってるところ。不謹慎ながら画として派手な出来事なんだから使えば良かったのに、と思ったり。
で、監督にもその話をしたら「もう散々語りつくして飽きちゃったんですよ。」との事。ん、まあたしかにそうだろうなあ...。


映画の宣伝では「一水会初のドキュメンタリー」と書いてあったけど、フタ開けてみればかなり私的な映画、監督のおっしゃってた通り確かに「シネマエッセイ」だったかもしれません。
でも、監督や出演者が意図していない部分とかコントロールしていない部分までたまたま映っちゃうのがドキュメンタリーだと思ってるんでね。なかなか良質なドキュメンタリーだと思いました。今公開中の現状もかなり面白いです。なにせこの映画の中心人物であるはずの木村三浩さんの公式HPではこの映画の事を全く取り上げてないんですもの。やはり木村さんご本人にも思うところがあるのでしょう。権力持っちゃった人みたいに描かれててるしね。なにか監督と木村さんとの間に不穏なものを感じざるを得ない...。



と、いう事でこの映画は金子監督と木村三浩さんがトークショーで直接対決する12/23に観る事を強くオススメします!
決戦場所は渋谷のアップリンクXですよ!



おまけ
ところで自分って右翼なの?左翼なの?っていう人の為のテスト

日本版ポリティカルコンパス

一言で右・左と言っても【政治】のスタンスと【経済】のスタンスでは違うからね。
ちなみにボクは【政治的な右・左度0.4】【経済的な右・左度-0.37】と極めてゼロに近い結果が出ちゃった。





※本文に漏れた感想

  • 金子監督は30日間毎日誰かとトークショーをしているらしく、ボクがご一緒させて頂いた時もかなりお疲れでした。極真空手の百人組手を思い出しました。
  • 結局政治的な目線で感想書かなかったけど、右翼の人とか左翼の人とかいわゆる「本物の人」の感想がちょっと聴いてみたい。