「堀川中立売」

先週は前回のブログにまとめた騒動でてんやわんやだったので延びに延びてしまいましたが、今回は「堀川中立売」という映画の感想を書きますよ。


そもそもこの映画を知ったのは結構前で、一年くらい前からtwitterのTL上にこの名前が流れてきてました。まず読み方がわからない。去年の東京フィルメックスで上映された影響みたい。その割に感想が全然聴こえてこない。たまに見かけても「すげえ!」とか「ひでえ!」とか極端にシンプルな感想ばかり。誰が出てるかとかもわからん。で、HPとか見てみると子供がグランドみたいなところに書いてある☆を消してる写真なんかが載ってる訳ですよ。「堀川中立売」とyoutubeで検索かけてみるととか見ると訳のわからない映像がいっぱいアップされてる訳ですよ。


・・・あーあれか!いわゆる「スワロウテイル」とか「リリィ・シュシュ」とかみたいなしゃらくさいアート系映画(当ブログ比)か!と。
とはいえよく見かける名前なので気にはなっており、公開されたら観に行こかな〜ぐらいには思ってました。

で、今年。いよいよ東京の方でも公開!まったく情報が無いまま映画館に...とはいかなかったんだよね。「堀川中立売」観る直前に観た映画で予告編観ちゃった。

え、コメディなの?
変な印象を抱いたままポレポレ東中野へ。ちなみに「ほりかわなかたちうり」と読みますよ、念の為。


【あらすじ】※公式HPより引用

大妖怪・加藤 the catwalk ドーマンセーマンは、長年地球侵略を画策していた。それを察知し、密かに地球に降り立ったギャラクシー・フォースのリーダーは、京都と呼ばれる地で安倍さんと名乗り、陰陽師として人々に畏れられる存在となった。安倍さんは加藤の「ドロップアウトを許さない 人類補完計画」を阻止すべく、社会の片隅で遁世する信介(ヒモ王子)とツトム(ホームレス男爵)の二人に白羽の矢を立てる。遂に動き出した加藤の計画の鍵を握るのは、過去に「正義感殺人事件」と呼ばれる犯罪を犯した寺田。寺田の存在が世界の人間の“悪意"を呼び寄せ増幅してしまうことで、人々は我を失い、次々に妖怪化していってしまうのだ。そして、安倍さんが式神に仕立てあげた信介とツトムは、たった二人で妖怪化した民衆を相手に出陣する。<堀川中立売> 一見、何も起こっていないかのように見えるその地で、京都ギャラクシーウォーズがカオスにはじける!

...と、言っても意味が伝わるかどうか...。


む、本編に使われてないカットがあるね。


以下、感想!






面白えっ!
なんつーか、もう終始ニヤニヤしてました。コメディともホラーともアクションとも言えるようなごった煮映画!基本的に知っている人がタージン志賀勝桂雀々師匠しか出てこないんですよ。モロ「インディー映画」なんだろうなあと思ってたら、予想以上にお金と手間がかかってました。CGが頻繁に出てきてビックリ。でも「ここぞ!」って時にちゃんと良いタイミングで出てくるので効果的だったし、子供たちが作る「ペットボトルの飾り」の作り込みも時間かかっただろうなあ、と純粋に感心。もはや性別がどっちだかわからないくらいになっちゃってる妖怪「加藤 The catwalk ドーマンセーマン」の特殊メイクや、その加藤が京都を牛耳る為に流している放送「加藤 The TV」のテロップの安っぽさもやりすぎちゃってて好き。


出演者の皆さんも相当良いですよ。佇まいが良い。つか正直観た事無い人ばかり!(勉強不足)
主役のクズ2人を演じる石井モタコ(シンスケ)と山本剛史(ツトム君)のクズっぷりがたまらないよ。基本的にはパソコンの犯罪監視(晒し)サイトを見てるだけっていう仕事をやるにはうってつけのコンビだね。シンスケのあの何も考えていない会話の切り返しのスピードとか、ツトム君のあの「俺たちは天使だ!」の沖雅也みたいな雰囲気、でもホームレス...みたいなところとか見ていて全然飽きないよ。名コンビです。
シンスケが暇な時間をつかってやるゲームが「スぺランカー」ってのが上手いね。あれファミコン史上、最弱のヒーローだからね。奇しくも「シンスケ&ツトム君」っていう、まったく何もできない人間が地球を救う為に戦うっていうストーリーを象徴しているよう。頓知が効いてる!
役者を褒め始めたらキリが無くて、全員が適材適所。シンスケの恋人であるサエの狂気とか加藤の不気味ぷりもこの作品に彩りを添えてます。中でも子供の頃に殺人事件を犯してしまった「テラダ君」の存在感はハンパないです!だれこの子!?間違いなくそういう人に見えるという抜群の役作り。彼は本当に普通に役者をしているんだろうか...と心配になるレベルです。


ストーリーの話もせにゃならんね。ちなみにこの「ストーリーの説明」に行き詰っちゃって、日記書き始めてから既に4日以上かかってんだけどね。
もう簡単に言えば悪い奴をやっつける話です。ホントはその理由とか意味とか順番とかあるんだけど、その辺りはもうぐっちゃぐちゃ。だから観ながら「アレって何だったの?」って考えなきゃいけないという、大変複雑(めんどくさい)シロモノになってます。そのせいでこの作品の世界観に入り込めず脱落してしまう観客多数。しかも考えたって「答え」無いからね、これ。ホント恐ろしいよ。
という事でボクがムリクリに考えた補足。
悪の化身「加藤 The catwalk ドーマンセーマン」と阿部さん&きららちゃんのチーム「宇宙警備隊」は、もう歴史上何年も京都で争っていて、今回はたまたま現代の話。今回の加藤はTVとネットといったメディアを駆使して人間たちを何も思考しない「ゾンビ」にしてこの世を征服しようとする。それを阻止する為にチーム「宇宙警備隊」は、ハナからバカの2人(シンスケ&ツトム君)を使ってゾンビたち、そして加藤を倒す為に対峙するのであった。奇しくも阿部晴明が「式神」を操って悪霊を退散させたように。
・・・ってことでどーすか。ボクがこの映画を観て受け取った話ですよ。辻褄むりやり合わせましたよ。「誰も守ってくれない」みたいな「現代の社会問題を切り取る!」とか、作り手は別に考えてないと思うよ。2ちゃんねるとか一応取り扱うけど意外とさらっと流すもんね。でもそうやって別に現代社会に対してなんか警鐘を鳴らそうと思ってない態度が逆に現代っぽく感じたりもしましたよ。
一点だけ不満な部分を言うと、大妖怪加藤がもっとはっきりと悪い事やってるってのがわかると良かったかもね。まああんまり気にならないけど。観客を置き去りがちな部分がそこなんじゃないかと思ったのでね。


こういったストーリーの複雑さもそうなんだけど、なにより「映画」そのものを破壊しようとするエネルギーにボクは一番ハマったんですよ!
まあ延々とカオスが続く中、いよいよ加藤率いるゾンビ軍団(ノーメイク)とチーム宇宙警備隊が戦うクライマックス。カッコ良い音楽とともに修羅場になるんだけど、「時間」という概念がもうここには無いんだよね。シーンがそれぞれ独立して存在しているというかね。シンスケとツトム君はこっちの路地で戦ってるけど、同時間帯では向こうの路地でも同じようにシンスケとツトム君が戦ってる。全てのカットが同時進行にあの街で起こってる。まったく繋がってない。証拠に今まで観客が観てたシンスケとツトム君の本体は監視部屋で白目剥いて気絶してんだもの。と、いうか 「人々が普通の生活をしている『リアル京都』がまったく別の時空に存在している」とも思えてきます。筒井康隆の「虚人たち」っていう小説を思い出しました。小説の主人公ってはっきり自覚してる人物が違う場所に囚われた女房と子供を同時に助けに行くっていうお話。まさか映画でそんな体験ができるとは思ってもみませんでした。
これだけでも結構満足なんだけど、衝撃の波は更に後にありました。シンスケとツトム君vs加藤の最終決戦。
今までは「同時刻」という点で時間の概念を突き破ってましたが、この戦いでは「更にとんでもない演出」でその先へぶっ飛んでました。
ノーメイクゾンビとの戦いは「同時性」という概念への破壊行為。
vs加藤との最終決戦は「映画の時間軸」そのものへの破壊行為。
このシーン観た時はねえ、正直ビックリしすぎて爆笑しましたよ!!
あのグルーヴ感には感動です!この映画のキモでもあるから書かないけど、是非体験してほしい!
あのシーンにずっと浸っていたいと思いましたね。この時点でもう今年のベスト3に入る事は確定です!


イデアが面白いとバジェットとか有名人が出てるとか関係ないんだなとつくづく思い知らされました。
日本映画でここまでド派手に「映画」をブチ壊してるのはそうないです。これは心の底からオススメです!


でも賛否両論あるのは間違いないからとりあえずまず映画館に行って確認する事からオススメしますよ!









以下、本文から漏れた感想。(ネタばれ含む)

  • 大妖怪「加藤 The catwalk ドーマンセーマン」って石原都知事っぽいね。でけえタワーにいるし専門チャンネル持ってるし。バカを煽るし。
  • 冒頭のテロップの誤植(「川中立売」ってなってました)すらマジなのか計算なのかわからんよ。
  • なにもクライマックスに限らずこの映画って最初っから時間の概念をブチ壊してるね。実はスゴい前から雀々師匠の息子やツトム君がガヤで出てる。なにより冒頭のタイトルバックの戻り橋のカットはラストシーンの戻り橋のカットを使ってる!
  • この話は間違いなく京都じゃないと面白くないだろうね。京都っていう不思議な街が起こす話として素晴らしい。しかし、まあこれとか鴨川ホルモーとかマザー・ウォーターとか、京都って何か亜空間を産みやすいのかしらね?※マザーウォーターはボクの中では亜空間映画です。
  • 音楽がスゲエ良い。今度観に行ったらサントラ買う。特にテラダ君が一人苦しむ時にかかる曲が最高に良い。
  • テラダ君的クライマックスのアレって自分の仲間を作ったって事で良いのかな?
  • 「アレってアレだったんじゃない?」とか観終わった後に色々考えられる作品なんだけど、唯一「死ねば良い」親子だけが頭の中で繋がらなかったよ!脈絡の無さと顔芸がすっごい印象的!
  • 加藤vsチーム宇宙警備隊の話ってずっと昔から未来まで延々と繋がるんだろうなあと思ったのは、最終的に加藤が形態(ビジュアル)を変えてまた人さらいをしていたり、加藤が持ってた名刺に書いてある記号が引っかかったから。チーム宇宙警備隊が使う☆印と加藤の名詞に書いてある格子状の記号が「ドーマンセーマン」という言葉と共に、対になってるって事を後日知ったんですよ。あの戦いは終わらないよ。

  • エンドロールに存在協力「中島貞夫」と往年の監督をリスペクト。
  • ツトム君のしゃべり方は個人的にちょっと真似したくなるんですよ。「しゃべればしゃべるほど軽薄になっていく」あの感じが自分に近いシンパシーを感じる訳です。まだお分かりになりませんかあ?はっはっは。(ビシーッ!と指さしながら)