「スプリング・フィーバー」

twitter上で「スプリング・フィーバー」という映画が、大阪で上映中止騒動になってるというのをたまたま知りました。そこらへんのまとめは【Together-「スプリング・フィーバー」上映中止騒動】を読んで頂く事にして、とりあえずどんな映画なの?って事で観てきましたよ。

まずあらすじを書く前に、この映画がどういう状況下と言う事を書かねばならん。あ、これ中国映画ですよ。ボクも劇場に入ってから知りましたけど。ただ、中国映画と言ってもちょっと事情が複雑な作品なんですわ。
中国では、国内で映画を作る前にはまず通称「電影局」という、日本でいうところの「映倫」の政府機関版みたいなところに必ず「脚本審査」と「完パケ審査」を通さなければならないそうです。というか、この審査に通ってないと映画館にかからないとのこと。で、この作品のロウ・イエ監督は電影局から通達を受けて「国内で映画製作を5年間禁止」されています。理由は前作で「天安門事件」と「性描写」を取り扱った作品を電影局の許可がおりないまま作り、なおかつその作品をカンヌに出しちゃった為。作る前に国の検閲が入るってスゴい話。しかも国が個人の製作活動を禁止するって...。世の中は広いねえ。実はもうそんなに「対岸の火事」でも無い気がするけどね。
そんな中、ロウ・イエ監督は海外のプロダクションからお金を集めて家庭用のデジカメでゲリラ的に一本撮っちゃいました。それがこの「スプリング・フィーバー」。要は国からの処分を無視したっていう。その後、この作品も去年のカンヌに出品し、コンペティション部門で「脚本賞」を受賞しました。
その後、地元の南京インディペンデント映画祭のグランプリまで取る事に。中国では審査の通ってない作品はかからないとさっき書いたけど「良い作品は上映する!」という男気溢れる映画館主もいたそうで、映画祭で上映されたそうな。法律でガッチガチに固められてる中国だけど、こういった「裏道もあるよ」みたいな事も良い意味で中国っぽいね。おおらかというか、ね。



で、ようやく以下【あらすじ】です。※プログラムより引用

夫ワン・ピンの浮気を疑う女性教師リン・シュエは、その調査を探偵に依頼し、相手がジャン・チョンという“青年”であることを突き止める。夫婦生活は破綻し、男ふたりの関係も冷え込んでしまう。その一方、探偵とジャンは惹かれあっていく。ジャンと探偵とその恋人リー・ジン。奇妙な三人の旅が始まった・・・。


以下、感想。




先に答え言っちゃうとマジでおススメですよ、これは!

冒頭でいきなりゲイのカップルが激しくSEXをします。でも全然、嫌悪感が無かったね。非常に綺麗で確かにエロい。冒頭からかなりこの映画の世界観に引き込まれました。主要人物が男女5人出てきます。全員自分勝手に生きてるんだけど、表情にどこかしら影がある。刹那的に生きていても「幸せの基準」ってのがないからフワフワとしていてとても幸せには見えない。天気の悪さや家庭用デジタルカメラの映像の雰囲気も相まって、画面の温度がいい感じで低いです。ゲイバーで酒をたっぷり飲んでても好きな人とSEXをしていても哀しくみえる。結局「幸せの基準」が無いって事は辛くて哀しい事ですよ。

主要人物5人の中で一番中心になる、っていうか一番迷惑をかける「ジャン」という男の持っている空気が素晴らしいです。中国という国で、ゲイというマイノリティであるが故にもう人生をたゆたうしかない。そんな彼と出会うと皆、自分の「本質」に気づいてしまう。本当に愛してる人が誰だったとか、どうしても同意できないものがあるとか。「迷惑をかける」っていうか結果的に一番利用されてしまうっていった方がしっくりくるかも。「人を好きになり、そして別れる。」っていうシンプルな出来事であり複雑な心境を、5人の主要人物が全力で観客にぶつけてきます。誰かを好きになるって言う事は、幸せであると同時に誰かに迷惑をかけてしまったり誰かを傷つけてしまったりするかもしれないって事までこの作品では描ききってました。お見事です!

なによりこの作品で一番ボクが感動したのは、中国と言う国の現在をこの映画で観れたという事です。
なにせ中国映画には「脚本審査」や「完パケ審査」があるって事を初めて知りましたから。この映画はそういった検閲を飛び越えて作られた本物の中国の今が映ってる訳ですよ。奇しくも主要人物たちがちょうどボクと同世代。中国人監督が検閲無しで作った同世代の人間の物語。同世代の日本人の考えてるような事と全く同じでした。もちろん環境は違いましたよ。不正コピーを作ってる工場で働いていたりしてたし。でも中国の彼らもボクらと同じように働き、遊び、そして同じように悩んでました。その違いの無さに嬉しくて感動しましたよ。


この映画、中国映画の現在を知る上で傑作です。多くを語っていないのに映像が雄弁。結局は人間どこ行ったって同じでしたよ。だから感動できるのね。お客さん入らないとこういう傑作も観る機会が減っていくんですよ。マジでオススメです!ぜひ映画館に行ってください!


【おまけ】
この作品でいわゆる「切なさ」が最高潮に達する時に流れる曲があまりにも良過ぎて忘れられません。歌詞なんか聴いてもわからないけど心に残りました。歌詞を改めて観るとこの映画の事を歌っているよう。でも中国ではけっこうお馴染みの曲っぽいですよ。訳詞と併せて映像を貼るので、これを今回のおまけとしたい。

「あの花たち」訳詞 ※プログラムより引用

「那些花儿(Those flowers)」詩/曲/歌 朴树(Pu Shu) 
歌声で 思い出したよ あの花たちを
僕の人生の片隅で静かに咲いてた
いつまでも一緒だと思っていたのに
今 僕らは離ればなれ 人並みに呑まれたまま
花たちはもう枯れただろう
花たちはどこにいるのだろう
僕らはこうしてあてのない旅に出る
ラララ・・・ あの花を想うよ
ラララ・・・ まだ咲いているだろうか
ラララ・・・ 行けばいい

花は風に吹かれ天の果てに舞い散る
語りきれない物語なら やめてしまおう
歳月にまぎれた想い もう曖昧な形だけ
今は荒れ野の草むらに美しい花は咲かない
思い出に蘇る 花たちの春夏秋冬
花たちはもう枯れただろう
僕らはこうしてあてのない旅に出る
ラララ・・・ あの花を想うよ
ラララ・・・ まだ咲いているだろうか
ラララ・・・ 行けばいい

※本文に溢れた感想

  • マジで中国のゲイって大変そう...。作品中に出てきたゲイバーは本物らしいけどまだ日本より同性愛に対する理解って無いだろうに。
  • 工場長なるキャラが出てくるんだけど、あのキャラが良いね。ごはんのマナーのなってない感じとか。