「クロッシング」

北朝鮮の映画の方では無い「クロッシング」を観てきました。同じ年に同じタイトルが先に公開されてるってかなり不利な状況だね。検索してもみんな「北朝鮮がなんたらかんたら」とかの感想の方が先に目に入ってくるので埋もれがち。


【あらすじ】

1週間後に退職予定の警官エディ(リチャード・ギア)は、犯罪が日常茶飯事のニューヨークのブルックリンで20年以上働いてきた。一方、麻薬捜査官で家庭的なサル(イーサン・ホーク)は、妻と5人の子どもたちのために、新居を購入するための資金に困っていた。そして潜入捜査官タンゴ(ドン・チードル)は、危険な任務に嫌気が差しており……。

以下、感想です。
ネタばれはしてないけど情報は入れないで観に行った方が面白いから、これから観る人は観てから読んでもらった方が良いかも...。






おもしろかったですよ!
筋肉バカ炸裂!みたいな映画も大好物なんだけど、こういった地に足が着いたどっしりとした社会派サスペンスも好きなんですよ。サスペンスっていうかエンターテイメントですね。楽しんじゃってるからね。


まず俳優陣。主役である3人がそれぞれ今までのイメージとはちょっと違った役柄を演じていて、表現力の幅に感服いたしましたよ。身重なのにぜんそくで苦しむ奥さんと、たくさんの子供たちの為に金集めに必死になるイーサン・ホークは、すっかり痩せこけて視野狭窄。金で首が回らないっていう「闇金ウシジマくん」の主役になれそうなキャラになってました。ウシジマくんで扱ってたら「刑事くん」って言うタイトルでしょうね。でもこれだとまた違う作品が浮かんできちゃいますね。話ずれました。
ドン・チードルは刑事なんだけどずーっと囮捜査をさせられててギャング団を取りまとめるクラスにまでなっているという役柄。なにせギャングですから。かなり暴力的だし近寄ると危険な感じが良く出てましたよ。「ホテル・ルワンダ」の時とは全く違ってました。ちなみにボク今まで映画にドン・チードルが出てくるとなぜか笑ってしまってたんですけどね。この作品に於いてはそんな事無かった。
後はリチャード・ギアですよ。「HACHI」以来のギア。良かったなあ!あと一週間で定年っていう普通の警察官役。ブルックリンはとにかく犯罪が多い。配属されてから22年間、毎日毎日犯罪で、いろんな事に絶望した結果「事無かれ主義」でなんとか定年を終わらせようとするダメ警官をリチャード・ギアが演じるっていう、ね。売春婦のおねーちゃんと一緒にいるのがなによりの幸せって役をギアが演じてるのが非常に新鮮でした。詳しく書かないけどかなり情けない事になってるよ。あの顔がそんな役柄に上手くハマってましたね。


で、この映画のどこに一番の面白さを感じたかって言うと「クロッシング」っていうタイトルのハマりっぷりね。そもそも原題は「Brooklyn's Finest」っていうんだけど、この映画観てみると、なるほど確かにこれは「クロッシング」ですよ。

かなり閉塞感のある映画です。
主人公三人は常にイライライライラしています。
下っ端がいくら頑張っても所詮組織は上から順番に出世していく。ギャング団の中で危険な目にあっているというのに!
押収した大金が目の前を通り過ぎる。今自分が必要なのに!
犯罪の量が多すぎて個人の力ではとても解決しきれない。目の前で人がさらわれているの言うのに!
絶望に近い無力感。警官としてのアイデンティティはグラグラ。3人の置かれている環境はとにかく辛い。
3人の置かれている環境とは、警察組織という絶対的な「義理」という名の縦ラインと、仲間たちや妻や子供、愛する人といった揺るがない「人情」という名の横ラインが十字に重なる場所です。「義理と人情」なんて簡単に言いがちだけどね。「義理」と「人情」はそれぞれ相反するもの。あちらを立てればこちらが立たず。実際その十字路に立たされたら人間って重大な選択をしなきゃいけないって事なんですよ。
これだけでも結構な十字路なのに、そこには更に「善い事」と「悪い事」を自ら判断しなければならない別の十字路や、「金が欲しい」「出世したい」「穏やかな暮らしがしたい」といった「本音」と「そんな事言ってる場合じゃねえし、それをやるには立場的に都合が悪い...。なぜなら自分は警官だから。」みたいな「建前」が重なる十字路もあります。
こういった数多くの十字路が、この映画の舞台であるブルックリンの交通網のように複雑に絡み合っています。そんな環境に立つ3人。でも生きていくには道を一つ決めなければならない。そして最後に3人が腹を括ってそれぞれ道を選択して歩き出す。このシーンが秀逸で素晴らしかったですよ!タイトルが「クロッシング」だって?上手えタイトルつけるじゃねえか!

人間て簡単に物事の良し悪しって決められないんだよね。己の信じた道を行くしかない。たとえそれが荒野でもね。この映画の作り手はそういった複雑な問題に対してちゃんと答えを出してましたね。立派だと思いましたよ。3人それぞれに関しては実はそんなに密接じゃないって部分も好き。ギリギリ顔を知ってるか知らないかのレベル。


悪いところが無い!って事も無いんですよ。
例えば、この映画はクライマックスまで3人のイライラを丁寧に描いているんだけど、クライマックスに入ってからも同じく丁寧に撮ってるんだよね。悪く言えばリズムが悪い。テンポが上がらなくて、せっかく今まで丁寧に盛り上げてたのになんだか間延びしちゃってたような印象。
あと、本編と関係ないけどやっぱりタイトルってさあ...。「クロッシング」っていうタイトルがあまりに内容にズバッと決まりすぎちゃってて、逆に「言うだけ野暮」なんじゃないの?っていう気持ちもある。あとはタイミング。いま「クロッシング」って言ったら「北朝鮮の...」って思う人の方が多い気がする。「狼の死刑宣告」とか「3時10分、決断の時」とか去年も良い邦題があったんだから「110番街交差点」みたいに完全に日本語のタイトルでいった方が目立ったのに。漢字の威力を侮っちゃいかんよ。


こんな感じで悪いところもあるけどさ。いまちょうど、いじめを認める認めない云々言ってる小学校とか、尖閣の映像を流した海保隊員とかいるじゃない。この映画の言いたいテーマとタイムリーだから今観といた方が良い映画だと思いますよ!


おまけ
「本音と建前」

手抜きですいません。


※本文からこぼれた感想

  • 台詞のちょっとした事でそれぞれの置かれている状況がわかるっていう脚本が良かったよ。
  • 「間違った方法で善い事をした。」「今の幸せに感謝しろ!」とかグッとくる台詞がいっぱいあった。
  • 鏡の使い方が印象的でした。立ち位置を上手く表現してた。
  • 冒頭のシーン。映画としての「つかみ」。この演出びっくりしたけど嫌いじゃない。
  • ドン・チードルの兄貴分、命の恩人、マイメンのキャスティングにまさかのウェズリー・スナイプス。すげえ久々!