「マザーウォーター」

明日はせっかくの休みなので景気良く「ビッチ・スラップ」を観ようと渋谷へ行きました。が、どうせ面白いんでしょ?と、気分を変えて180°方向転換。新宿で「マザーウォーター」を観ました。金魚だったらここまで環境が変わるとついてけなくて死にますね。


【あらすじ】あ、あらすじあるんだ。
cinema cafe.net より引用。

不変な中にヒタヒタと進化を続ける、そんなシンプルな美意識を貫いてきた街、京都。街をよこぎる大きな川と、その川に繋がるいくつもの小さな川や湧き水。そんな確かな水の流れがある京都の街に住み始めたのは、芯で水を感じる三人の女たち。豆腐を売るハツミ(市川実日子)。コーヒー店を始めるタカコ(小泉今日子)。そして、ウィスキーしか置いてないバーを営むセツコ(小林聡美)。多くを語らず、そよぐ風のように暮らす三人の女たちにかかわることによって、やがてそこに住む人たちの心にも、新しい風が吹き抜けていく。今一番大事なこととは——。そんな人の思いが静かに強く、いま、京都の川から流れ始める。

以下、感想です。




基本的に「エクスペンダブルズ」とか「ナイト&デイ」を最高!とかいってるレベルのボクですよ。源流には石井隆の「GONIN」があります。石井隆原理主義です。そんな人間がこういったノーおっぱい、ノーガンアクションの映画の感想をどう書くか?難しいっすねえ...。
とりあえず一言で言えば面白かったですよ!
ただ、おそらく監督以下、作り手の皆さんが意図したテーマとは全く違うところで面白さを感じてしまいました。気持ちは面白いと思ってるんだけどなんだか頭が痛くなってきたり。


まず率直に思ったのは、
リズムがガキの使いの「絶対に笑ってはいけない」シリーズみたいでした。
小林聡美が食パン食ってんですよ!そりゃ笑うさ!!台詞とか雰囲気が「竹中直人の恋のバカンス」とか三木聡時代の「シティボーイズライブ」みたい。さも良さげな台詞をたっぷりと。劇場内がシーンと静まり返ってる分「これって笑っていいんだよね...」とも思えず、結果笑うのを我慢せざるを得ないという苦行に。なんだかわからないけど劇場内の笑ってはいけないという雰囲気がスゴかったんだよね。葬式で笑っちゃうのと同じようなもん。個人的には特にもたいまさこがツボに入って、出てくる度に笑ってしまうようになってしまいましてね。まさに「ギャグマシーン」としてのもたいまさこ。「キラーもたい」だわ。もたいまさこが店先で豆腐食ってる画だけで面白すぎる!映画が延々と「ボケ」を繰り出しているようなもん。生来「ツッコミ」気質のボクとしてはかなり辛かったです。映画観て笑うのを我慢してんだけど、客席から携帯が頻繁に鳴るっていうのも併せてキツかったなあ。他の客からのまさかのトラップ。ノリが「今夜が山田」っぽい。まったく油断できん!


内容はね。「かもめ食堂」とか「めがね」とか「トイレット」といった、ああいう世界観というのを初めて体験しましたよ。こっちはそれがどういうモノか体感する為に観に行ってますからね。登場人物の関係性がよくわからないし、台詞が全体的にぼんやりしてるしで「なるほどこういう事かあ...。」と納得。確かにこれはスゴい事になってるなあ。まるで実験映像。談志の「やかん」の一節を思い出しました。
「先生、上品ってなんですかね?」「上品ってのは欲望に対して動作がスローモーな奴を上品というんだ。」ってやつ。
これでロードショー公開ならあらゆる映像がシネコンでかかるわ!と思いましたよ、序盤の頃は。

ただ、あまりにもこの映画の舞台の「作られた世界」感がスゴ過ぎて、これってひょっとしたらSF映画」として観たら面白いかも...と思い始めるようになりました。


※こっから完全に個人的妄想の感想です。多分、他の方が書かれる感想やレビューが合ってると思います。ネタバレしてますんでご注意。


監督でも良いし、豆腐屋の女性を演じる市川実日子のキャラでも良いんだけど、これは「働いている人間が夜に見る夢」を映像化した作品なんじゃないかと。で、この映画を観るって事は「ボクがその人間の夢の中に入り込んで見学してる」っていう状況なんだと思えてきて、結果「すげえ面白い!」と思いましたよ。「インセプション」なんですよ、これは!

そう考えるとあらゆる不都合に全部合点がいくんです。
普段と変わらぬ日常を淡々と...という世界では全くないんですよ。この映画に日常など描かれていません。完全にパラレルワールドの話。

登場人物はもたいまさこを除いてみんな何か仕事をしています。豆腐屋だったり喫茶店だったりバーだったり。それらがみんな暇そうっていう...。暇のレベルが尋常じゃないんですよ。客入ってないんですから!一日中ボーッとしてる感じ。小林聡美が営むバーなんて特に酷くて「うちはウィスキーしか出さないんですよ。」だってさ。絶対経営成り立ってないって!

でもそんなのはこの世界では別に良いんですよ。だってこれって夢だもの。ハナから「リアル」なんざどうでも良いんです。舞台は京都となってましたが別にどこでもない場所にしか見えません。メインの登場人物以外はほぼ出てきません。鳥の声とか車の音がするんだけど一切出てきません。昼も夜も色のトーンが一定です。映画全編を通して小林聡美が結構な量ウィスキーを作るんだけど瓶の中身がちっとも減ってません。こういうのってすげえ夢っぽいじゃない!

で、そんなパラレルワールドで登場人物たちは、延々と食ったり飲んだりノンビリしたり良さげな言葉をふんわりとなんとなく言ってみたりするんですよ。
「完全なる箱庭」感。
ここではないどこか。
「好きな事しかやらない」、そしてそれを「善きこと」としている人間たちの世界。

・・・現代の理想郷ですわ。この世には無いね。この映画は常にそこだけを見せているんですよ。
そりゃ一定量の客層にあたるわー。ホントに上手いと思います。
この映画ってほとんどのシーンで登場人物たちが必ず何か食べたり飲んだりしてるんだけど、それってモロに「欲望の解消」のメタファーなんじゃない?実はそういう仕掛けもあるんじゃないかと勘ぐってみました。まあ、もちろん個人的妄想から出ている感想なんですけどね。
みんなこの映画観終わったら、また酔っぱらいが溢れる満員電車に乗って帰るんですよ。で、朝になったら、また満員電車に乗って加齢臭のキツいはげた部長の小言を食らうような生活を送るんですよ。
映画の時ぐらい嫌な事忘れてノンビリしたって良いじゃない!っていう「現実逃避のツールとしての映画」として優れているとボクは思います。監督のいいたい事は多分違うと思います。この溝って多分埋まらないよ。映画というメディアに関しての考え方が完全にすれ違いましたね。


でも、違う世界を覗けたというだけでも大満足でした。なによりこの映画の登場人物とボクは図らずも同じ事をやってしまっているのです。もたいまさこ市川実日子豆腐屋を通り過ぎるんですよ。毎日買いに来てるのに。後で市川実日子もたいまさこに「何で買わなかったんですか?」って聴きます。「普段と違ったことをしてみたくて。」だって。それって「ビッチ・スラップ」観ずにこれ観たボクと同じ理由じゃん!




【おまけ】
映画の途中で「これは『インセプション』だ!」と思ってからは、いつもの世界に戻って来れるか不安になったのでエディット・ピアフの「水に流して」に当たる曲として、長渕剛の「KIZUNA」を頭に流しながら観てました。いやマジで観ながらこの映画いつ終わるんだろう...と不安になったし。

マザーウォーター」観てからこの曲聴くと、やっぱり「エクスペンダブルズ」の曲としてぴったしだわ!と思えるようになりました。


※本文で溢れた感想。