「『踊る大捜査線』は日本映画の何を変えたのか -日本映画専門チャンネル 編-」

本屋をブラブラしてたら気になるタイトルの新書が。

2000年代の日本映画界を良くも悪くも牽引してきた所謂「テレビ局の映画」という類の作品群の源流、「踊る大捜査線」シリーズ。1998年の「パート1」では実写の邦画の歴代興行収入4位、2003年の「パート2」では興行収入173,5億円というとんでもない金額で実写の邦画の歴代興行収入1位をたたき出し、未だ破られていないという状況です。「踊る大捜査線」という映画シリーズがなぜあそこまで大ヒットしたのか?この大ヒットが日本映画界に与えた影響とは?そして今後どうなっていくのか?という事を、元キネ旬編集長、日本映画学校校長、元刑事、精神科医、脚本家、日経記者などの9人、そしてこのシリーズのプロデューサー亀山千広に検証していくという内容の本でした。

これはなかなか興味深い。熱狂的なファンがいる作品なのにもかかわらず、映画ファンから忌み嫌われているというこの「踊る大捜査線」。でも「踊る大捜査線」という映画が日本映画を変えたのは間違いない。で、それでどうなったの?と細かく分析している本って今までなかったからね。この本では9人の専門家と亀山千広Pがヒットの要因と問題点をあらゆる角度から分析してあーだこーだ言ってます。

例えば「パート1」が公開された1998年当時ってのは「日本映画冬の時代」。全っ然客が入らない。今じゃ考えられないけど「日本映画を観る」って事自体ダサいという空気もありました。いや、ホントあったって!それがこの映画のヒットにより日本映画を観る客が増えて市場が広がり、小さな映画も作られるチャンスが増えたという点。ちょうどシネコンができ始めたというのも功を奏したなんて意見もありましたよ。前より映画館に来やすい環境が増えたという利点にちょうど良い内容の作品だったって事もあるみたいで。

で、当然悪い面もあって、
テレビ局は視聴者の意見が一番重要なせいでファンサービスが過ぎる内容、悪く言えばテレビドラマとなんら変わらん事を映画館でもやっているという点。「公共の電波で儲けてるのにこれでも金取るの?視聴者をタダで招待してこそテレビ局の映画じゃね?」なんて目からウロコの事を言ってる人もいましたよ。こんな口調じゃないけどね。あといくら「踊る大捜査線」がヒットしたところで、映画館に来る人が増えただけで結果的に映画ファンが全然増えていないという事。ただ「踊る」ファンが「巨大なオフ会」の会場として映画館を使っているという事に過ぎないんですって。なるほどねえ〜。そりゃ古くからの映画ファンと解り合えないわ。オフ会の会場に場所取られて実際に日本に入ってこなくなっちゃった洋画の名作もあるもんね。個人的に笑ったのは元刑事さんの「オレは所轄と本部の両方を経験してっけど、別に本部はあそこまで偉そうじゃねえよ!」っていう事をおっしゃってました。口調は違(ry 。要は「影響力が凄いのに事実の一部を誇張して表現しており、それが既に視聴者に浸透してしまっている。」という事。これもたしかに深刻な問題。

こういったようにこの本では別に「踊る大捜査線サイコー!」とも「踊る大捜査線観る奴はバカ!」とも言っておらず、極めて両義的なちゃんとした「ドキュメンタリー」として成り立ってます。良いか悪いかなんてはっきりわけられる事では無いです。好きか嫌いかは別ですよ。ラスト10人目に亀山千広御大が出てきて今までの9人の意見に反論するけど、ボクが「それもどうかな〜?」と思うような内容だったってのは個人的な意見。荒井晴彦が脚本家代表としてこの映画について語るんだけど「この映画がヒットする理由がさっぱりわからない」なんて正直言って欲しくなかったよ!だから日本映画がダメなんじゃねえか!?と結構本気で腹が立ったのも個人的な意見。ホントはフジテレビがあまりに「作品」に引っ張られて本筋すらブレたってあたりも書いてほしかったけどね。先日の選挙特番を「踊る」の雰囲気でやって視聴率散々だった事もありましたし。

踊る大捜査線」が大好きだという人にはこの映画が残した負の遺産を、「踊る大捜査線」が大嫌いだという人にはこの映画が残した実績を知る事ができます。良い悪いは読む人が判断する事。オススメです!


あ、「踊る大捜査線」が大好きで「パート3」を観たら「あれ?つまんないかも...。」と首をかしげた人もこの本を読めば答えが出ますよ!



【おまけ】
雑なおまけですいません...。



ちなみにボクは「踊る大捜査線」は「パート1」まで好きですよ。「パート2」もみんなが言う程悪いとは思わなかった(と、いうか観た事すらあんまり覚えてない)けど、「パート2」のパンフをたまたま買って開いてみたら亀山千広さんがお台場の社内で出窓に腰掛けて景色を眺めている写真が表紙裏見開き2ページでどーん!と載ってましてねえ。
なにかが始まったと思いますた。