「Shikasha」

先日、高円寺で観た「CALF」のイベント。その時の話は既にもう「CALFの世界」という話でまとめたんだけど、今回はそのイベントで観た短編映画「Shikasha」のお話を書きます。

「Shikasha」は今年のカンヌ国際映画祭の「監督週間部門」で選ばれた10分間の短編。この作品を撮った監督の経歴がまたスゴいんですよ。平林勇監督という方でCMディレクターでもある。カンヌに出てるってだけでも充分スゴいのに他にもロカルノ国際映画祭やらベルリン国際映画祭やら、大小さまざまな映画祭で賞を手にしてます。CMと短編映画を両輪に、評価の高い作品を連発している人です。


以下、お話と感想ですよ。

舞台は荒地です。冬特有の抜けるような澄んだ青空。そこに警察官(?)の恰好をした男が向こうから歩いてきます。

かたや、暗い箱の中に荒縄でがんじがらめになっている子供と女。2人とも意識があるような無いような。

警察官と観られる男の目線の先に同じ格好をした男達。みんなで地面をあちこち掘って何かを探しています。

さて。






そんな映画。



短編映画なのであらすじはこんなもんで。いやあ、非常に良い作品でしたよ!「SHIKASHA」。変なタイトルですねえ。調べてみて納得しましたよ。生薬に女性の胎盤を使った「紫河車(しかしゃ)」というものがあるんだね。母と子が荒縄でがんじがらめになっているというのも、母子の関係性のメタファーとして良く機能してると思いました。極限状態で母は子に対していったい何ができるのか?このテーマが綺麗な映像と相まっていつまでも心に残る作品になっていましたよ。こういった良作が映画祭で高い評価を受けるって言う事はなかなか嬉しい事。「母と子の命」という主題は世界共通なんだという事をたった10分で教えてくれる作品ですよ!



っていうね。まあこの感想はボクのでっち上げなんですけどね。



この作品を「CALF」のイベントで観た時、平林監督がおっしゃっていた内容が目からウロコでした。この作品、実は色んな点においてかなり「計算」されて作られているという事に感動しました。平林監督は世界を舞台に戦う監督なんですよ。この「戦う」って言うのがポイントで。戦うからには勝たねばならんのです。勝つ為にどうするか?平林監督は「CMディレクター」というもう片方の一面の所作から映画祭に乗りこんでいるんです。世界中の映画祭を研究、分析してあみ出した自分の「推論」を短編映画という「実験」を行う事によって「答え」を出しているんですよ!それ聞いた時はこの人かなり「攻撃的な研究者」なんだと思いましたよ。「なんだ、映画祭の賞狙いで作品作るなんてヤラシイ奴じゃねえか。」なんて思うかもしれませんが、ボクの感想は全く逆。至極まっとうなCM職人が日本では評価される場がほぼ無い「短編映画」の世界という、この「Shikasha」の冒頭のシーンみたいな荒地を、まだ誰もやっていないアプローチで突き進んでいくという姿は痛快であり、ハードボイルドですよ!

おしむらくは平林勇監督の作品を観ている人が日本では限りなく少ないという事。やっぱさ、人に観られてこそ「映画」だからさ。上映される場所が無いとか短すぎるとかいろいろな問題があるのが物凄い残念。もっといろんな人に観てもらい!

この「Shikasha」という映画。いわゆる「説明」というものが全くありません。台詞ほぼ無し。なにやってるの?とかなんでこうなってるの?に対しての答えがゼロ。かろうじて「物語の骨格」のみがはっきりとあるだけ。だから「CALF」のイベントで上映が終わった時、若干ざわついたもんね。ボク今でも思ってますよ。「何これ?」って。

で、ここで色々と感想を書いてしまう事こそ監督の術中にまんまとハマってしまっていると思っています。さっきみたいにタイトルの意味とか書いてる時点で実は結構な野暮。いんだよ細けえことは!正直、未だに感想はまとまってません。だからでっち上げました。まだいろいろ考えていたいんだよ!この映画は「思考のタネ」であり、その気になれば一生「アレってなんだったんだろう?」と考える事ができる作品です。無意味な世界を見せられた時のこっちの気持ちたるや!映画館にいるというか、美術館で絵を観ているような錯覚に陥ります。個人的には「額」に飾って眺めていたい作品。「『きょとん?』からの思考」という、普段体験できないような高尚なおもしろを体験してみたい人はオススメです!


ちょうど10/30から渋谷シネマアンジェリカで「真幸くあらば」と「トロッコ」の併映としてこの「Shikasha」が公開されます。ホントめったに観れないからタイミングがあれば是非!


【おまけ】
林勇監督のもう一つの顔であるCMディレクター。実はこっちで作った作品の方が世間ではお馴染み。
だってこれだもの。


で、youtube探してみたら平林監督の作品があったよ。上と比べてみ。雰囲気から内容からテーマから全く違うから!(あたりまえ)

これは本編まるまるあった。さすが短編映画!


短編映画っていうフットワークの良さもいいね。作品を作れば作るほどその監督のパーソナリティが出てくる。いろんな噺ができるんけど、結局「名前」で客が来る噺家の世界みたいな。