「ヌードの夜/愛は惜しみなく奪う」

体を壊したのでやめちゃったんだけど映画業界で働いてましてね。働くようになったきっかけは高校生の時に見た「GONIN」という映画。

この作品に衝撃を受けて「この世界で働きたい!」と思ったもんですよ。で、この作品の監督の最新作が公開されていたので久々に観ました。

石井隆監督作品「ヌードの夜/愛は惜しみなく奪う」

【あらすじ】公式サイトより引用

男は、女のすべてを許し、救いたいと願った ————

とある街でバーを営むあゆみ(大竹しのぶ)、桃(井上晴美)、れん(佐藤寛子)の美しい母娘。その末娘れんが、ある日『なんでも代行屋』を営む紅次郎(くれないじろう)の事務所を訪ねてくる。「父の散骨時に一緒にばらまいてしまった形見のロレックスを探して欲しい」。世捨て人のように生きて来た性善説男・紅次郎は、奇妙な依頼と思いつつも、天使のように純粋なれんを放ってはおけず捜索を始める。しかし、これがきっかけとなり、 “3人の女たち”の欲望を纏った完全犯罪に巻き込まれてゆくことになる。そして、その完全犯罪の先にあったのは、れんの抱えるさらにおぞましい闇だった。次郎はれんを救うため、彼女の闇を抱き続けて来たある深い森へと導かれるように入ってゆく……。


以下、感想!



雨とネオンと縦書き文字。石井隆の美しくて残酷な世界観炸裂!冒頭からじいさんを殺して母娘3人下着姿で遺体をざっくざくと切り刻むシーン。この異常な世界に一気に引き込まれます。鮮血とハエの音でスクリーンから死体の腐臭が匂って来るようで観ていてとにかく息苦しいです。この母娘を演じている大竹しのぶ井上晴美、後述するけど佐藤寛子が素晴らしい!狂ってる!人を殺す事がなんでもない人たちにしかみえない。実際に殺してるシーンよりもご飯を食べてるシーンとか酒を飲んでるシーンにそういった狂気を感じさせてるから凄い。大竹しのぶさんなんてね、声だけ聴けばアリエッティのお母さんなのにね。

主演の竹中直人も、最近の作品でしょっちゅうやってる「THE 竹中直人」みたいな演技をしておらず、ただ人を信じる事しかできない男を体現してました。ボクが勘違いしてただけなんだけど「村木」ってもっとなんでもできる男だと思ってました。そういやもともとは単なる商社マンだったもんね。だからこの「流れに翻弄されながらも必死に惚れた女の為に動く普通の男」という設定はあり!つか、ちゃんと前作の「ヌードの夜」に繋がってる話だったんでびっくりしました。あれから17年だったんだ。

なにより今作一番の収穫は女優「佐藤寛子」という素材を発掘した事でしょう。演技一つで作品全体の出来を大きく左右してしまう程の最重要人物「れん」を見事に演じきっていました。「佐藤寛子」がいないと成立しない映画。グラビアアイドルの時は特に気にならなかったんだけどね。まさかここまでできる人だとは全く思ってませんでした。喜怒哀楽の爆発力は満島ひかり安藤サクラといった、今勢いのある女優に追いつくのも近いと思いますよ。今後がスゴイ楽しみです。ちなみにこの作品中の佐藤寛子さんは、全体の3分の1は素っ裸で綺麗なボディーを見せてくれますが、その裸自体には全て「れん」という人物の「あまりにも不幸な人生」が投影されている為、エロ目的で観ると痛い目に合います。可哀想過ぎてホントにただ辛い...っていう。


ラストの場所どこだよ!?とか不満がない事はないけど、終わってみれば大満足の映画でした。今年観た映画では一番痛々しい暴力を見せてくれる作品でしたよ。三池崇史監督の「エンターテイメントとしての殺し」とはまた違った、とにかく生々しい殺し。この世の「地獄」でなんとか生きようとする女と助け出したい男の話。すごく良いよ!観了後はただただ疲労。「チェイサー」を観終わった後にも感じた、どういう感情でそうなるかは分からないけど、体がぶるぶる震える作品でした。「ジョニー・トー」とか「ポン・ジュノ」がもてはやされてるけど、そういや日本には「石井隆」がいたんだ!と再認識させられる映画。万人にはオススメしないよ!でも邦画だってちゃんとしている作品はある。フィルム・ノワール万歳!


【おまけ】
映画「GONIN」はハードボイルド作品として傑作なんで色んな人にもっと観てもらいたい。でも、あんまり知られてない感じがあるのはなんでだ?と思ったら作品の権利が借金のかたで行方不明になってたみたいね。過少評価すぎるよ!
と、youtubeにガンアクションだけまとめた映像があったけど貼るのやめました。


【おまけ2】
石井隆監督のファンサイト管理人さんが作ったこの映画「特別ファンサイト」のクオリティが公式サイト並みにすごい!