「ベスト・キッド」

先日公開されていた「ベスト・キッド」。
ボクも観たんですが、どうしてもモヤモヤしてしまって感想が上手い事まとまらなかったんですよ。口頭では色んな人に話してるけど、それでもあんまりスッキリとしない状態。で、1984年公開のオリジナル版を観てみたら、これがまあ自分が抱えてたもやもやの答えがちゃんとあってスッキリ!今回はその辺りの話。

大ヒットしている映画だし、内容は難しくないんで「あらすじ」は割愛で。要はいじめられっ子が謎の老人にカンフー(空手)を教えてもらっていじめっ子をやっつける話ですよ。

ベスト・キッド」予告編


以下、モロにネタばれしながら感想!



主人公のジェイデン・スミス演じるドレ君が良い!とか、ジャッキーが素晴らしい!とか、皆さんが評価している点はホントその通りですよ。ドレ君や他の子役の演技が素晴らしいです。気迫あふれるアクションを見せてもらった上で、エンドロールの撮影オフショットの子役たちのあどけなさにほっこりとさせられました。何よりジャッキーの名演技ですよ!昔からジャッキーが感情を爆発させる演技は良くて(ポリスストーリーのラストカットとか)、今回は年齢を重ねた渋みなんか出ちゃってて見応えがありました。特にピンチになったジェイデン君を助けるシーンと、カンフーを教えるシーンには感涙!悪役の子供たちをカンフーでいなす辺りなんてもう仙人のような流れる「さばき」だし、カンフーを教えるシーンなんか「酔拳」「蛇拳」を思い出しちゃって思わずグッと来てしまいました。まるでジャッキー・チェン主演の大河ドラマを長い年月をかけて観ているような気分。もうこの時点でこの映画は最高なんですよ!


でもね...って話です。こっから本題。

この映画を観てスッキリしないのは、ラストに至るまで主人公ドレ君にあんまりピンとこなかったからなんだよね。
きっかけはドレ君がライバルのチョンたちに泥水ぶっかけるシーン。
そもそもカンフー習う前にいじめっ子にやりかえしてるんですよ。じゃあカンフー習う必要無くね?っていう。あのシーンのライバルのチョンって、一人でいた訳じゃなくていじめっ子集団と一緒にいるところを、ドレ君は果敢にも一人で泥水をぶっかけるからね。それくらいの肝っ玉の持ち主なんだから、彼は別にカンフー習わなくても「できる子」なんですよ。ホントのいじめられっ子だったらああいう事なんてできないはず。できないからいじめられっ子な訳であって、反抗出来るなら別の友達ができてるって!

ここがどうにも引っかかってるうちにドレ君に彼女ができ、都合2回デートをする。いや!だから彼女ができてデートしてる時点でもうカンフー必要ないでしょ!更に1回目のデートで彼女とキス。あのー、もう彼女とキスしちゃった時点でこの映画終わりだと思うんだけど。主人公に安住できる場所ができちゃったら、もうカンフーでいじめっ子をやっつける必要が無いんじゃないの?こう考えだしちゃったからクライマックスのトーナメント戦が全然盛り上がらない。負けたところでこいつ彼女いるしなあ、くらいの話。カタルシスが起きないんだよなあ...。

この話を友人に話すと「オリジナルでもいじめっ子にやり返すし彼女とキスもする。」っていうだもの。耳を疑いましたよ。で、オリジナルを観てみて納得!オリジナルスゲエ良く出来てる!起こる出来事は2010年版と同じ。でもそのシーンの意味合いと起こる順番が違う。

オリジナル版で主人公ダニエルさんがライバルのジョニーに水をぶっかけるシーン。このシーンは高校の仮装パーティで、彼女と初めて良い雰囲気になったその次のシーンなんだよね。要はダニエルさんが有頂天で調子に乗った勢い!しかもライバルのジョニーが一人でトイレに入ってるところをバレないように狙っての行為だから、ダニエルさんの「ヘタレ感」がより増す効果になっている!そうなんだよ。いじめられっ子がいじめっ子をやり返すほどのテンションになる理由が欲しかったんだよ!

彼女とデートを2回するところも一緒。でも起こる内容が全く違う。オリジナル版の一回目はまさかの「ダニエルさんのお母さん同伴デート」。理由:ダニエルさんは車の運転ができないから。いや〜、とはいえこれはカッコ悪い!案の定いじめっ子集団に見つかって思いっきりからかわれてるし。彼女の前で見せるこの惨めさよ。一回目のデートでさっさとキスしちゃった2010年版とは大違い。
2回目のデートもニュアンスが違うんだよな。ダニエルさんがデートに向かったところ、彼女がライバルのジョニーとキスしてる(無理やりキスされてる)ところを偶然観てしまい慌てて逃げてしまう。一方、今までのダニエルさんのヘタレっぷりに腹にすえかねた彼女。この二人の誤解がクリアになったところで初めてふたりはキスする。で、このキスは空手の大会の前日!っていう構成の上手さですよ!

主人公や彼女の心の動きがオリジナル版では見事に繋がってるのと比べて、2010年版ではあんまり盛り上がるようにできてないと思いました。主人公が抱えるストレスが常に早い段階でクリアされてしまうから、一番の見せどころであるはずのトーナメント戦に見てるこっちがついていけない。主人公に物凄く甘いんだよね。エンドロールに出てくるウィル・スミス夫妻のカットよりも、実はこの話の構成自体に「親バカ」を感じましたよ。だからあんまりのれなかったんだ!あー、スッキリ。じゃあタマフルにメール送るか!(周回遅れ)


結局「ホット・ファズ」が如何に傑作だったかって言う話になりますよ。あれは主人公のストレス(=観客のストレス)が溜まりに溜まったところに、白馬に乗って登場するからクライマックスがドカンと盛り上がるんだよね。主人公には率先して辛い目に合ってもらいたいよ。人ごとだけど。


【おまけ】
自分の記憶で一番古い「カンフー」。