Chim↑Pom「LEVEL7 feat.明日の神話」

金曜日、仕事の合間を縫ってChim↑Pomの個展「REAL TIMES」を観てきました。目当ては「LEVEL7 feat.明日の神話」という作品。今回はこの作品の感想、というか「Chim↑Pom」について思った事を書きます。



以下、時事通信より引用

【芸術家グループが表明=岡本太郎氏の壁画いたずら−福島第1原発事故の絵】
JR渋谷駅構内に展示されている故岡本太郎氏の壁画「明日の神話」に福島第1原発事故を連想させる絵が貼り付けられた問題で、都内に拠点を置く芸術家グループが18日、自身らの仕業と表明した。
 グループは男女6人組「チン←ポム」で、メンバーの女性は「芸術家がするべきことをやっただけ」と主張。ギャラリーで原画や貼り付けたシーンの動画を展示するとしている。
 壁画は縦5.5メートル、幅30メートルの大きさで、1日夜、壁画の右下部分に縦80センチ、横2メートルの板が貼り付けられているのを警視庁渋谷署員が発見し、撤去。壁画に損傷はなかった。同署は軽犯罪法違反容疑などで捜査している。
 板には原子炉建屋とみられる建物が四つ描かれており、グループは福島第1原発事故をイメージしたと説明している。(2011/05/18-23:55)


岡本太郎明日の神話」の右下に加えられたいたずら書き(岡本太郎記念館提供、1日撮影)



この落書きの話はたしかTogetherで知ったんだけど、随分「野暮」な事するなあと不快に思いました。なんでこの絵にそんなしょぼい落書きをするのだろう?そもそも皆さんご存知の通り「明日の神話」っていうのは「核」をテーマに取り扱っていて、あの巨大な作品から発せられる「核について考えろ!」っていうメッセージを、東京・渋谷のど真ん中から常に観る人の頭の上に浴びせかけていました。
最初っから「核」について取り上げている作品に、更に今起こっている「原子力問題」について喚起させるような絵をちっちゃく足してなんか起こるんだろうか?原子力問題」についてなんかやるなら、例えば電力館に忍び込むとか、東京電力の壁になんか書くとかすれば良いのに。最終的に「やっぱり岡本太郎すげえ!」にしかならない気がするんですよ。岡本太郎の絵に同じテーマをちょい足しするってのは「虎の威を借る狐」でしかないんじゃないでしょうかね。


その後、犯人がChim↑Pomだったって事がわかる訳ですが、それ聴いてスゴい納得したと同時に結構絶望的な気分になったんですよね。
たしかにChim↑Pomだったらやりかねん。なにしろ彼らはかつて広島の空を「ピカッ」っとさせて方々から大目玉をくらった集団。それにしてもこのタイミングはどうなんすかね?こういうゲリラ的なモノってのは「誰がやったかわからない」くらいが粋だと思うんですが、個展が始まる2日前にカミングアウトっていうのはがっかりするほど野暮で下衆に感じてしまったんですよ。なんだ結局権威を利用したプロパガンダか...。


基本的にボクは「Chim↑Pom」の創作する「エネルギー」についてはものすごく評価しているんですよ。少なくともこうやってPCの前に座って適当になんか書いてるボクみたいな奴よりもアグレッシブに活動してる分、立派です。なんとなく応援してしまっているのはメンバーと同世代だからかも知れません。彼らにはどんどん美術界を牽引していって欲しいと思っています。
しかしながら彼らの作品を見る度にいつも頬を赤らめてしまうのです。観てるこっちが恥ずかしい気持ちになる。ぶっちゃけ痛々しい...。「じゃあ観なきゃ良いじゃねえか!」という意見もあるでしょうが、恐ろしい事に彼らの作品はいつも向こうから勝手に視界に入ってくるようなモノばかりなのですよ。「ピカッ」然り「LEVEL7 feat.明日の神話」然りね。
なんつーか彼らが「超面白い!」と思ってやっている活動がどうしてもボクの了見と合わんのですよ。ちっとも面白いと思えんのです。お笑い風に言うといつも「スベってる」感じ。彼らは何故いつもスベり続けてしまうんでしょうか...。


ボクが一番最初に「Chim↑Pom」を知ったのは恐らく「スーパー☆ラット」を発表した時からだったと思います。あの時も何が面白いのかよくわかりませんでした。しかしまあ「何かを表現したい!」というエネルギーはものすごく感じたので特に不快にも思いませんでした。
その後にChim↑Pomの名前を聞いたのはあの「ピカッ」騒動でね。「ピカッ」に関しては「ひでえ事しやがるなあ...。」と口では良いつつ心の奥底ではニヤニヤとしてました。「バカだね、そりゃ怒られるよニヤニヤ。」位のレベル。あれは純粋に「想像力の欠如」から起こしたミスだと思っています。あの時だってChim↑Pomが「ピカッ」と「表現したい!」という了見は充分伝わりました。なんも無いんだけどとりあえず思いつきで「ピカッ」とさせたかったんでしょう。でも制作するにあたって一番重要な「人を説得する」という大事な行程をすっ飛ばした故に起こってしまった「事件」。「ピカッ」とする為に「まず誰の理解を得ておくべきであったか」というビジョンがない。その後に起きる騒動もChim↑Pomが全て計算し、コントロールしていた訳でも無いですし。「ただただ騒動に呑み込まれた、身を任せてしまった芸術家集団」という風に見えました。
Chim↑Pomの作品はいつもそう。何を作ってもいつも「他者とのコミュニケーションの欠如」如実に表れてしまっている気がします。


「コミュニケーションの欠如」。コレがChim↑Pomの最大の魅力であり、弱点なんだと思いました。
なにしろChim↑Pomですもの。ちんぽむ
名前が卑猥だし、ローマ字にしても読めないっていう。名前からして既に他者にメッセージを伝える能力が無い。この日記の上で引用したニュースをもう一回見てくださいよ。新聞なのに名前の表記が間違ってんですよ(矢印の向きが違う)。名前からもうスベってるってどうなのよ。名前が既にマイナスでスタートしちゃってるから、いくら真面目なテーマの作品を発表してもいわゆる「一般人」には今後も届かないでしょうねえ。「人を振り向かせる為にはまず相手をぶん殴る」っていうくらいの会話下手。「こんにちは」の挨拶もできねえのか!と。この辺りが同世代としてちと頬を赤らめてしまう理由なんですよ。Chim↑Pomのリーダー、30過ぎなのに...。
今回の「LEVEL7 feat.明日の神話」が発表された時から、ボクはChim↑Pomについて「どこが面白いのか?」とか「何が嫌いなのか?」とか真剣に考えてたんですが、彼らの作品って評価にありがちな「DQNの悪ふざけ」、というよりも「クソ真面目な奴が一生懸命考えたギャグ」の方が的確なんじゃないかと思いましたよ。ガリ勉とかお坊っちゃま達が「ちんぽむ」と敢えて名乗って、一生懸命に、というか無理して「悪ふざけしてます!」っていう態度が見えちゃうからなんだか痛々しいし、観てるこっちが醒めてしまうんですよ。クソ真面目な奴が考えるギャグってだいたい寒いんだよね。


かつての超問題作(未完)の「ピカッ」で起きた様々な議論を経て、Chim↑Pomは創作のテーマにしている「生と死」や「平和」の他に、新たに「核」というテーマを背負う「覚悟」ができたんでしょう。だから今回の震災で起きた原発事故に関しても何か「態度」を表明する必要があった。今回の原発事故はまさにChim↑PomChim↑Pomである為に避けては通れない一大事件だったんだと思います。後から文脈を言われてみれば「核」をはっきりと扱ったものでこれほど有名な作品が渋谷のど真ん中にあるんだもの、「何かしたい!」っていう気持ちはわからんでも無いですよ。でも結果として「岡本太郎作品にちょい足し」っていうのは、やっぱり的外れとしか思えませんでした。発表後、そんなに話題になってないってのが何よりの証拠だと思いますよ。あの作品がボクを含む「アートが全くわかってない一般人」の心にも「原子力」について深く考えさせるような強烈なパワーを持った作品だとは思えないのです。すげえ「アート」ってのは一般人の心にも届くくらいのエネルギーがあるもんじゃないですかね。


今回の震災はChim↑Pomの存在意義が根底から崩れてしまう大ピンチだと思いますよ。
ど平和な世の中に対して「その平和は本物かよ!」と痛烈に批判する(まあ、ボクはいつもスベってたと思いますが。)作品を発表する。
映画「ダークナイト」におけるジョーカーみたいな軍団。だから好き嫌いがはっきりと別れる。
しかしChim↑Pomの作品が生きていたのって、日本が「平和」だったからだったんだなあと痛感しました。今みたいな「日本大ピンチ!」という状態になってしまうと、Chim↑Pomって意外と当たり前の事しか言わないんだね。結局、真面目かっ!3.11以降のニュースやyoutubeでさんざん見た数々の「地獄絵図」の後で「LEVEL7 feat.明日の神話」と言われてもそりゃ「しょぼい!」としか言えませんよ。もう我々は「街が一気に波に呑み込まれる」というあの「地獄絵図」を見ちゃってるんですよ。「3.11以後」というのなら、それを超えるくらいのインパクトのある作品が観たかった。それが「絶望」を表現してても「希望」を表現してても構わないんですよ。Chim↑Pomにはそれが出来たんじゃないですかねえ。
岡本太郎の「明日の神話」のあの巨大なサイズに対してのChim↑Pomの「LEVEL7 feat.明日の神話」のベニヤ板のサイズ。あれが奇しくもChim↑Pom自身の志の大きさを体現してしまったようで本当に失望してしまいました。平和の上に成り立っていたChim↑Pomが、この「日本大ピンチ!」の時にどういう形で「平和」を我々に考えさせてくれるのか。正直今回はダダズベリでした。次回にスゴく期待しています。


あの震災は誰だってやっぱり衝撃的だったからね。今回みたいな爆発力の無いシケた作品を発表してしまったのはChim↑Pom自身も酷く動揺して慌てたからかもしれません。今後また東北が完全に復興して「平和」が戻った時にChim↑Pomの作品がまた光り輝くんですよ。Chim↑Pomの作品観て「またバカやってるよ...野暮だねえ!」とニヤニヤ笑って言えるような平和になって欲しいもんだと思いました。





【おまけ】
テレ朝のニュース。

一応、フォローしておくと、この取材をしてるのは「文化部」ではなくて「社会部」という事。
ハナから制作意図を取材しようなんざ思っちゃいませんよ。「世の中には不謹慎な奴もいるもんで...」っていうのがこのVTRのテーマ。
しかし岡本太郎だったら怒ってますよ!」とか人の名前借りて良く言えるね。



※追記
先日「岡本太郎展」を観に行ったんだけど、太陽の塔を建てる為に岡本太郎自身が建築に携わるあらゆる部署に細かく「これ(太陽の塔)はどういうテーマで、なぜこれがここに必要か?」と説明している映像が流れてたのが印象的でした。