「ライブテープ」

あけましておめでとうございます。
今年一発目は「ライブテープ」という映画の感想を。
2010年度に観た映画の中で一番良かった作品です。


2009年元旦の吉祥寺。ミュージシャンの前野健太が武蔵野八幡宮からサンロード、ハモニカ横丁吉祥寺駅を抜けて井の頭公園まで弾き語りをしながら移動する、74分間の「ロードムービー」。特筆すべきはその手法。74分間、ゲリラでワンカット一発撮り。

正月、おとそ気分の吉祥寺の空気と、前野健太はじめスタッフ陣の張りつめた空気とのグルーヴにクラクラ。いくら正月とは言え、ギター片手に大声で歌ってんですもの。警官が職務質問してきたり、酔っぱらいが絡んできても全然おかしくない状況。この先、何が起こるかわからないという「緊張感」が観ているこっちにも伝染しました。共犯関係に陥ったような気分。

この映画を観てから既に半年以上も経ってるんですが、当時見終わった後はものすごく良いプロレスを観た気分になったんですよ。「監督」松江哲明と「出演者」前野健太の74分1本勝負。クリエイター同士のプライドのぶつけあい。元旦の吉祥寺で歌いながら移動するのを撮るっていう企画を考えた監督と、それに乗った出演者ってだけでも既に面白すぎます。更に作品中にも松江哲明vs前野健太の勝負が色々な場面で出てきて、しかもそれが全て良い形に残っているという事にも驚きました。「サングラス取って歌ってください」というシュート(プロレス用語)を仕掛けた監督と、それを想像を超えた形で返した前野健太のアーティスト魂は本当に素晴らしかったです。


また、前野健太が歌う曲がどれもグッとくる曲ばかり。観終わった直後にtwitter

元旦の街並みという「非日常の風景」に、歌いながら移動するという「非日常の風景」を重ねて映画にする。そして前野さんが歌うテーマは一貫して「あなたと私の日常」。この対比は凄い。

と呟きました。吉祥寺の風景と曲のマッチングが本当に良かったです。

この映画は「元旦の吉祥寺で起こした74分間の出来事」を切り取っただけだからかもしれませんが、映画の随所に「奇跡」が映っています。明らかに監督の演出の範疇を超えているんだけど、映画的に素晴らしい!っていう「奇跡の瞬間」
「ドキュメンタリー」って監督の「編集」次第でどうにでも加工できてしまうという、かなり危険で面白いもの。しかしドキュメンタリー作家である松江監督は、この作品で「編集」という監督としての最強の「武器」すら放棄して「映画」というものに全てを委ねたという姿勢に深く感動しました。そこに今でも惹かれているから去年のベスト1にしたのでした。

これからも事あるごとにこの作品を観直したい、少なくとも近所で上映している際には劇場に足を運びたいと思える作品でした。


ちなみにボクはこの映画を渋谷と吉祥寺でそれぞれ1回ずつ観てましてね。舞台である吉祥寺で観た時に思った事。
映画に映っている吉祥寺の風景とは既にだいぶ変わってました。伊勢丹ユザワヤもロンロンももう無いんだもの!起こっている事は変わってないのに、映っている景色が既にもう懐かしいという不思議な体験。


※写真は今日吉祥寺で撮りました。