「ヘルタースケルター」

先週この映画が公開された夜からtwitter上でも賛否両論の感想が流れてきまして。感覚的には否が多かったようなので実際どんなもんなんだろうと気になり観に行きましたよ。

【あらすじ】※シネマトゥデイより引用

トップモデルとして芸能界の頂点に君臨し、人々の羨望(せんぼう)と嫉妬(しっと)を一身に集めるりりこ(沢尻エリカ)。だが、その人並み外れた美ぼうとスタイルは全身整形によってもたらされたものだった。そんな秘密を抱えながら弱肉強食を地でいくショウビズの世界をパワフルに渡り歩く彼女だったが、芸能界だけでなく、世間をひっくり返すような事件を引き起こし……。

【予告編】


以下、感想です。
また壮大にネタバレします。あと、この先あんまり良い事書いてません。
この映画がお好きな方には申し訳ないです。








残念ながらあんまり楽しめなかったっすね...。

なんか変な緊張感がありましたね。台詞がなんであんなにガチガチだったんでしょう?傑作であるオリジナルの実写映画化という重圧があったのかどうかわかりませんが、観ていて終始ハラハラしてしまいました。主演の沢尻エリカさん、熱演してるとは思いますが全体を通して硬かったっす。確かに大胆なオールヌードを披露して頂けるんですがね、冒頭だけなんですよ。物語上脱いでないといけないシーンは他にもいっぱいあるんですけどね。いつも通りエロ表現にお茶を濁した日本映画と何ら変わりありません。センセーショナルな宣伝しておいて中身がしょぼいあたり絶妙に「エクスプロイテーション映画」なんですが、見世物にしたってもうちょい親切じゃねえの?と思ったり。


と、このようにいつものペースで作品の不出来の部分を指摘しだしたらキリが無く、今作のように冗長になってしまうので後でまとめて書けるだけ書きます。特に気になった点を2点だけ。


ひとつめ。構図が悪い。転じて「ホント映画を舐めてんだろあんた。」
今作は「大スターが堕ちていく」という話でありましたが「堕ちていく」という表現がクドいんですよね。後半のある事件からクライマックスの記者会見までに「堕ちていく」って表現を2、3回やる。あと「堕ちていく」という表現は他のシーンにもあるけど、どれもワンパターンなんですよ。頭かきむしって「ぎゃー!」なんつってね。そりゃ上映時間も長くなりますよ。りりこが画的になかなか堕ちてくれなかったから(堕ちていくように見えなかったから)こうなっちゃったんだと思いますけどね。


ここで話題は一気に逸れますが、映画「アーティスト」の話をちょろっと書きます。具体的な感想書いてませんがあの作品は面白くて好きなんですよ。きめ細やかな気配りが利いていたと思います。「アーティスト」も今作同様「大スターが時代の波に呑まれて堕ちぶれていく」という話ですが、「堕ちていく」という表現を言葉で説明せず画の中にちゃんと表していました。主人公と、主人公に憧れて映画界に入った女性の「ステータス」が変わり始める映画会社の階段のシーン。主人公は階段の下から、女性は階段の上から他愛もない会話をします。以降、エンディングまで主人公に「階段や段差を降りる画」はいろいろあれど「階段を上る」という画は無いんですよ。彼はどんどん階段を降りていくんですよ。彼の人生が堕ちていくように。こういう表現が出来るから映画って面白いと思ってまして。


話を戻します。
この作品って彼女たちを「構図で表現する」みたいな事に対しては無頓着なんですよ。これってこの話に関して言えば重要な事だと思うんですけどね。ただ撮りゃ良いってもんじゃないでしょう。いっその事、りりこがスターとして君臨している時は「りりこは全てを見下ろした目線の構図」に、ライバルこずえが出てきてからはりりこは「全てを見上げるような目線の構図」に徹底すれば観客にも本能的に伝わる部分も多いのに。例えば、りり子のライバルこずえが登場してビルの屋上で泣くシーンは階段上から下にいるスタッフに対して泣き叫ぶ。ただ泣いてるだけで今後の彼女の立場を予見するような表現は無い。水族館のシーンなんかりりこ、エスカレーター上っちゃってるし。この件はライバルのこずえの描き方にも言える事で、花やしきでのこずえは羽田を見下してないとダメでしょう。逆にラストはりりこはこずえを見下ろしてないとダメでしょう。
立ち位置のちょっとした工夫だけでも観客に多くを伝える事が出来るから映画って面白いのに、ホント「ただ映像化した」だけ。映画撮ってるのに映画的手法にはこだわりが無いので、それこそ「写真集で良くね?」という台詞を吐かせてしまうのです。さすが一流カメラマンだけあって「1枚画の説得力」はありますが、映画には「画」の他に「時間」とか「台詞」とか「話の展開」とかありますからね。写真には無いこういう部分を表現する画の作り方は全くダメだと思いました。
その証拠にこの映画を観終わった後に監督の「ヘルタースケルター写真集」を拝見しましたけどストレスを感じませんでしたもの。写真=「画」とボク=「観客」の間に何もないから。ただ「映画」には「画」と「観客」の間に前述の「時間」とか「台詞」とか「話の展開」みたいな色々なモノが介入してくる。そこら辺が最後まで昇華されなかった事が残念でなりません。これが2作目という事でしょうがないとは思うけど、才能ある映画監督なら一作目からもう本能的に出来てる事。


もう一点。美意識の問題。
どういう計算があってやってるのかワカリマセンが、市井を生きる人達、一般人達の描き方がずさん過ぎませんかね。「りりこが巷で大人気!」を表現する画が「街の女子高生たちがキャーキャー言う」だけなんですよ。しかも若干古い。90年代の女子高生。今日び夕方の渋谷でも観ないレベルのファッションセンス。いくら「ヘルタースケルター」が90年代を描いていたとはいえ、ねえ...。
しかしながらコレばっかりはどうしようもなかったんだと思うんですよ。この辺りを突き詰めて考えていくと、この映画全てが破綻しちゃっただろうなあと思います。


ヘルタースケルター」ほど自分の内面を曝け出さないと撮れない映画も無いもんで。
でも監督のご職業の立場上、自分の内面を曝け出すという事はリスキー過ぎますよね。


原作「ヘルタースケルター」は、虚構で彩られた禍々しい世界に堕ちてしまう女の子を描いた作品で、この世界を作る人達やそれを楽しむ一般人達もまた一瞬を楽しむ刹那的な人間達であるという事までちゃんと描ききっていました。

蜷川実花監督ご自身もこの世界を作る仕事をしてらっしゃるじゃないですか。

ファッション界を代表する一流カメラマンが、同じ世界で堕ちていく女の子を描くって随分タチの悪いジョークですな。蜷川監督を支持しているような一般人達をああいう風に描いた(または「ああいう風にしか描けなかった」)ってのはやはり結構ギリギリな選択だったと思いますよ。「ヘルタースケルター」は、作り込めば作り込むほど監督の生きている世界を否定しかねないという、監督をピンポイントで苦しめるアンビバレンツに満ちた作品なのです。

果たして監督はちゃんとご自身の内面を曝け出すのを無意識に避けてしまったように感じました。あくまで見た目の「美」に対してのこだわり。この作品が「この虚構で彩られた禍々しい世界まさにそのもの」となってしまったのがなんとも皮肉ですね。



と、いろいろ書きましたが別に取り立てて腹も立てるような映画でも無かったですよ。演技の上手い方々が良いポジションでキャスティングされており、それぞれ魅力的ではありました。桃井かおりは原作以上に狂ってましたし。大森南朋は良くない意味で狂ってましたけどね。監督の好きな「ヘルタースケルター」はこれ!って映画でしかないから、感想としても「ふ〜ん。」っていう。
一点だけ良かったと思うのは「この作品を撮りたい!」という監督の了見。当然「不完全だ」って事は承知の上でしょうし、色々出来るようになった上で「満を持して!」と思ってる人には撮れない作品だと思います。そもそも「りりこは本名・年齢・経歴など全てが不明」とか、ネットが行き届いている2012年に於いて設定に無理が多い作品ですし。なにより「今、この作品を撮りたい!」という了見がない人に新しい事なんて出来ないですよ。映画の中身はアレですが監督のこの了見だけは好きですよ。だからこそ色々と言われると思いますが、全てを受け止めるその覚悟はあるとボクは思っています。「誠実さ」と「甘え」、2つを同時に感じ取れる興味深い作品でありました。





本文に書ききれなかった感想

  • りりこの持つ「狂気」みたいなものも足りなかったような。りりこに必要なのは「寄り目」じゃなくて「鼻水」だよね。
  • エロい映像に慣れ過ぎちゃってるせいか、随分変なセックスしてたね。
  • 赤目四十八瀧心中未遂」を観ちゃってるので寺島しのぶの方がエロかったです。
  • 上手い人ばっかり出てるのにヘタクソに見えるってすげえと思います。
  • 蜷川実花が本気出して描く「美を超えたグロさ」を観たかったのにそこまでやってくれなかったので残念。
  • 大森南朋マジでヤバかったね!今作一番の犠牲者と言っても過言ではない。全く違う次元の芝居を強制されてた感。
  • 面白いメディアミックスしてるなあ、と。パルコのCMはホントはああいう事だったのね。それは上手い。
  • 蓋開けてみたら意外とダサいぞ...!って意味でも監督はかなり危険な仕事したと思いますよ。90年代女子高生とかmacがカッコ良いと思ってる感じとか実際ダサかったし。
  • 名優、マメ山田さんがりり子の幻覚のシーンで登場する、けどラストのバーでも出てきて...ってマメが実在しちゃってるじゃねえか!
  • 監督のお友達はいっぱい紹介された気になりました。
  • 実在のファッション誌を使ってるくらいなら、りり子のスキャンダルがバレた時も東スポとかゲンダイとか使うのが筋。
  • こんなド素人がカメラのポジション云々なんて偉そうに書いたけど、これは、まあ素人が映画撮るのと同じ事と言う事で。