「ザ・ファイター」

あしたのジョー」は結局タイミングが合わなかったので観れませんでしたが、「ザ・ファイター」の方は観ました。今日はこの感想です。


【あらすじ】※シネマトゥデイより引用

地域の期待を一身に背負う名ボクサーだが、短気でだらしない性格から破綻した日々を送っている兄ディッキー(クリスチャン・ベイル)と、才能に恵まれていないボクサーの弟ミッキー(マーク・ウォールバーグ)。過保護な母アリス(メリッサ・レオ)や兄に言われるがままに試合を重ねるが、一度も勝利を収められず……。


以下、感想ですよ。





今年のベスト10に入るくらいの傑作でした!
労働者の街「ローウェル」で世界タイトルを目指すミッキー・ウォード。日銭を土方で稼ぎながらも世界チャンピオンになるべく一生懸命練習している。トレーナーは現役時代、チャンピオンであるシュガー・レイ・レナードからダウンを取った事のある兄のディッキー。マネージャーはミッキーとディッキー含め9人の子どもを育ててきた母。2人はローウェルのヒーロー。街を歩けばみんなが声をかけてくれる。そんな彼にも問題はある。それは兄と母以下、家族がどうしようもないダメ人間だという事。


やっぱり一番最初に目がいくのがこの「ダメ家族」の描写ですよ。汚い家にタバコの吸い殻と飲みかけのビールが散乱。家の真ん中にはでかいテレビ。お姉さんが7人もいるんだけどみんなろくに仕事もせずに家でゴロゴロ。収入減を全て弟であるミッキーに頼ってます。どんなに気持ち良い日曜日でも昼からダウナーな気分にさせてくれるでお馴染みのフジテレビのドキュメンタリー「ザ・ノンフィクション」を、より濃くしたような家族で、個人的には「大好物」。家族みんなが揃いもそろってダメ顔ってのが良いよ。まとまった金が入ったら間違いなく安楽亭で豪遊するような家族ですよ。キャスティングが見事だと思います。


物語の核を成す2人の兄弟を演じたマーク・ウォールバーグクリスチャン・ベールの演技がとにかく素晴らしいです。クリスチャン・ベールは髪の毛や歯を抜いて本物のディッキーにそっくり。この人のカメレオンっぷりって凄いね。ミッキーを演じたマーク・ウォールバーグも、ボクサーとしてはちょっとピークを軽く過ぎているっていう体型なのも完璧。クリスチャン・ベールよりも実は年上なのに成立しているのは2人の演技力と、マーク・ウォールバーグの「顔」だと思いますよ。渡哲也における渡瀬恒彦みたいにイイ感じで「弟顔」なんだよね。2人とも本物のプロボクサーにしか見えません。この辺りを「あしたのジョー」と比較したかったんだけど、観にいけてないのが残念ですよ。


そもそもこの映画って演出が上手いんですよ。ファーストカットの画だけで兄弟の関係性がわかります。冒頭の5分だけでこの兄弟の人間関係とか生活状況とかこれからどこに話が向かって行くかがわかります。この映画の世界に一気に引き込まれる感じ。オープニングタイトルの入り方なんてムチャクチャカッコ良いんですよ。構成が秀逸。ここでかかる曲はカッコ良すぎてそのうち缶コーヒーのCMに使われるんじゃないかなあとにらんでます。

ボクシングの試合の演出もリアルです。何がどうリアルか?素人が「ボクシング」というスポーツを観る場合、どこで一番観るかって結局はテレビ画面からなんだよね。この映画の重要な試合のシーンは、テレビの画質でボクシング中継と全く同じカット割りをしているんですよ!映画でありながら中継を観ている感覚に陥ります。だからホントとウソの境界線が物凄く曖昧になるんですよ。しかもここでのマーク・ウォールバーグは完全にボクサーであり、クリスチャン・ベールはも完全にセコンド。スクリーンに「俳優」という人種が1人も映ってませんでした。ボクシングってこう見せるとリアルになるんだな!上手い事やりやがったな!と唸ってしまいました。


音楽の使い方も抜群!大事な弟の為に闇金ウシジマくん」的なシノギで金を稼ごうとしてパクられてしまう兄が、刑務所の中で自分のアイデンティティを破壊されそうになる辺りは残酷すぎて目も当てられなかったし、そんなダメな子どもを嘆く母に兄が謝る代わりに歌を歌うシーンは心が熱くなりました。BeeGeesの「I Started A Joke」という曲。

ボクがジョークを言ったら それを聞いた世界が泣いた
それがボクをからかったジョークだなんて思ってもみなかった
だからボクは泣いた そしたら世界が笑った
自分は「笑い物」だったなんて、もっと早く知るべきだった

紆余曲折ありながら「世界タイトル戦」に向かう兄と弟。会場はアウェイのイギリス。ブーイングを浴びながら2人で入場曲を口ずさみます。
曲はWhitesnakeの「Here I Go Again」

またこの道を独り行こう
ここまできた唯一の道を
放浪者のように 独り歩き続けるために生まれた
そして心を決めた これ以上時間を無駄にしない

もうここで号泣です!正直、既にちょっとダサい感じもするこの曲で泣くとは思いませんでした。


かつての自分の栄光がまぶしすぎてその中でしか生きていけない兄と、9人もの子どもを女手一つで育ててきた母。その2人に振り回されてムチャクチャな試合を組まされてしまう弟。家族という「業」。離れ離れになってしまっても繋がっているという「家族愛」を映画はいろいろあるけど、ホントはそう思ってない人もいる訳で、この映画は「家族という『業』から逃げ出せない苦しみ」を見事に描いていました。近すぎて離れられないんですよ。その事は別に誰も悪くないんですよ。生き方が下手なだけ。ただ、問題を起こすのが家族ならそれを解決してくれるのも家族。描かれている家族は明らかに変だけど、テーマは不変。何度も書きますが大変素晴らしい作品でした!




【おまけ】
この映画のクライマックスとなった試合の実際の映像があったよ。スゲえ乱打戦!
3回も対戦したそうな。
アイリッシュ”・ミッキー・ウォードvsアーツロ・ガッティ トリビュート

兄ディッキーが映画内でさんざん「今度出演するんだ!」と言っていたHBOのドキュメンタリーってのもホントにあったんですが、ネタばれなので貼るのはやめときます。
タイトルは「High on Crack Street: Lost Lives in Lowell」なので興味がある人のみ各自検索で!(予告編のみです)