「DOCUMENTARY of AKB48 Show must go on 少女たちは傷つきながら、夢を見る」

今、AKB48の映画がやってるのね。前作からもう一年たったのかあ、という気分。AKB48に関しては、前作を観たおかげである程度名前は憶えたのですが興味は持続せず。映画に関してもいかんせん前作の出来があまりにもいちげんさん無視だったもんで今回はノーマークだったんですよ。しかしながらtwitter上ではすごぶる評判が良い。あと総選挙で1位を取った前田敦子さんと2位の大島優子さんの受賞時のコメントがボクの中では衝撃的でして。それ思い出してちょっと興味が湧いたので観てきましたよ。


【あらすじ】※シネマトゥデイより引用

2005年、秋元康のプロデュースにより誕生し、今や国民的アイドルの地位を不動のものにした AKB48西武ドームコンサートで3日間で延べ9万人を動員するスーパーアイドルたちのメンバー内格差や、アイドルとしての葛藤(かっとう)を1年にわたり追い掛ける。カメラがとらえたし烈な舞台裏や、メンバーのインタビューなども収録されている。

【予告編】

以下、AKB48に思い入れの無い人間の書く感想。



いくらAKB48に思い入れが無いとはいえ、総選挙で曲のセンター争いしてるって位は知ってますよ。前回の総選挙の時の2位の大島優子さんと1位の前田敦子さんのコメントは、ファンじゃないボクが聴いても衝撃的でした。
大島優子「1人1票ではないのか。1人で何枚もCDを買って本当に総選挙と言えるのか。いろんなことを言います。ですが、私たちにとって票数は愛です。」
これはまさに「宗教」としてあまりにも美しすぎる「赦し」。投票の為に何枚も買う熱狂的なファンに対しても、「1枚1票」という総選挙のシステムに関してとやかく言う外野に対しても、簡潔かつ素晴らしい見事なアンサーだと思いました。
その後に続いた前田敦子さんのコメントもスゴかった。
前田敦子「私のことが嫌いな方もAKBのことは嫌いにならないでください。」
10万以上も票を集め、AKB48の頂点に立ったエースの言うコメントとはとても思えなかったんですよ。「一番人気がありますよ!」と証明された総選挙でアンチを意識するとは...。いったいこの子にどれだけのモノを背負わせてるんだ!?と思った次第。


AKB48に関しては、去年公開された前作の感想で「AKB48とは【道】である。」と自分なりに解釈したんですよ。「柔道」とか「茶道」とかと一緒。メンバーもファンも「AKB48」という【道】を探究している者の集団。ただし、その道は「冥府魔道」。進めば進むほどその魅力にハマって抜けられなくなる。突き詰めて進んだ道の先には「虚しさ」だけしか残らないかもしれない。今回のこの映画は、そのAKB48という「冥府魔道」を真正面から描いた意欲作となっていました。


とにかく凄まじい映画でした。この映画の評判でよく耳にした「戦争映画」というキーワードが本当にぴったりだと思います。「単なるインタビュー集じゃないか!」とか「時系列よくわかんね!」といった、前作で感じたストレスがほぼ解消されており、AKB48に詳しくない人間が観てもすんなりと「戦場の最前線」を体感できる構成となっております。
2011年と言えばやはり「東日本大震災」で、アイドルでもやはりあの哀しい出来事は黙って通り過ぎる事はできません。この映画はAKB48が被災地に慰問に行くシーンから始まります。津波で流されて何も無くなってしまった街を走るバス。中にはその景色を見ているAKB48のメンバー。あまりに悲惨な景色でメンバー全員絶句。ホントに不謹慎な事書きますが、被災地とアイドルってものスゴく画になるんですよ。
瞬間的に9.11で世界貿易センタービルの瓦礫の前に立ちすくむスパイダーマンを思い出したのですが、全く違うものでしたね。

広場にはAKB48の到着を待つ子供たち。バスが到着し、慰問の会場に向かうAKB48。このシーンで既に涙がボロボロ溢れていました。子供たちが一生懸命AKB48を応援してる画が美しいのです。「アイドル」という「希望」。彼女たちの歌がどれだけの子供たちを励ましたか。こういうシーンが観れただけでも充分満足できました。


しかしながら震災の話などまだまだ序盤中の序盤で、ここからこの作品はAKB48のより壮絶な世界を描いていくのでした。


大きく分けると「震災」と「総選挙」と「西武ドームライブ」、あと新しくできた「チーム4」の話で構成されています。「総選挙」ではメンバーの精神を徹底的に追いつめ、「西武ドームライブ」では灼熱のドームと激しいダンス&歌がメンバーの肉体を破壊していく。まさに地獄。ホントに死人が出てるんじゃないか?ってくらいなんですよ。バックステージは酸欠状態で、メンバーが何人も何人もぶっ倒れていく。観ていてとにかく息苦しい。
そんな過酷な状況が続く中、観客を(というかボクを)救ってくれたのはメンバーの人間関係、チームワークでした。特に高橋みなみさん、前田敦子さん、篠田麻里子さんの3人のバランスの良さ。高橋みなみさんに関してはもう前作で「今一番信頼できるリーダー」だと認識してましたが、今作ではその思いをより強いものにさせてくれましたね。AKB48高橋みなみさんで持っている。そんな感じ。前田敦子さんは間違いなくスターですよ。過呼吸起こしちゃってフラフラの状態でもエースである以上、舞台に上がらなければならない。特に総選挙でセンターの位置を手に入れた「フライングゲット」はなんとしても歌わなければならない。この一連の葛藤のシーンは今作一番の必見です!前田敦子さんのスター性と高橋みなみさんの信頼できるリーダーシップがワンカットで伝わります。
話は前後しますが、印象に残ったのは総選挙の時の篠田麻里子さんでした。2位になってしまいバックステージで一人黙っていた大島優子さんのそばにスッと側に寄り添った瞬間。前田敦子さんには高橋みなみさんが寄り添ってましたが、ああいう風にAKB48ってのは絶妙なチームワークで活動してるんだなあという事が端的にわかる瞬間でした。


この映画を観る前と観終わってからでは「AKB48」に対する見方もだいぶ変わると思います。TVや雑誌、今ではどこを見ても笑顔のAKB48を見かけますが、あの笑顔の裏にはあそこまで過酷な世界があるのかという事がよくわかります。むしろ神々しさすら感じる。そう言った点では前作よりもより強度が増しており、骨太のアイドル映画となっております。これは間違いなく今観た方が良い!公開してからだいぶ経っちゃってるから急いで観に行く事をお薦めしますよ!








つって、終わらないのが「ドキュメンタリーすけべ」を自称している人間のする事ですよ。
いやホントすごい映像のオンパレードだし、上映中ずっと涙が止まらず、構成も見事なのでオススメなのは間違いなく、ボクもこれは何回も観たい作品だと思ってるけどさ...。「ドキュメンタリー」としてはうーん...という感じ。

「DOCUMENTARY of AKB48 Show must go on 少女たちは傷つきながら、夢を見る」

誰が傷つけてるの?っていう話ですよ。


「チーム4」のエピソードを書いてないや。新しくできた「チーム4」。リーダーに選ばれた大場美奈さんが彼氏を映ってるプリクラが流失したかなんかで謹慎処分になるんですよ。ものスゴく根本的な疑問なんだけど、AKB48ってなんで恋愛禁止なんだ?この辺りが「アイドル光と影」の「影」の部分だと思ってるんだけど。「この映画はAKB48の光と影を描いた」っていうけど、それはステージ上と舞台裏、つまり「表と裏」であって別に「光と影」って訳ではないんだよね。


AKB48に対して思い入れ無いなりに傍から眺めてて、率直に思ってたのが「いつかぶっ壊れるんじゃね?」という事。あくまで個人の印象なんだけど、なんであんなに売れても売れても売れても売れても「盤石の人気」感が無いんだろう?AKB48というアイドルは、かつてのアイドルとは違うと思うんですよ。AKB48の世界は「メンバー」と「ファン」だけで完結してないでしょう。「チーム替え」とか「総選挙」とか「じゃんけん」とか、AKB48に負荷をかけてファンの応援をエネルギーに変換する場を提供する「運営側」がいるじゃないですか。この映画は「運営側」をまったく描いていないんだよね。それはもう最初から「存在しないもの」くらいの勢いで。ボクは「この映画は『運営側』を描いていない」という点が、あらゆる疑問の「答え」のような気がしてならんのです。

AKB48という、言ってみれば日本を席巻する一大ムーブメントを描くドキュメンタリーで、それを司る人間たちが一切出てこないという点がものスゴく卑怯だし、AKB48そのものの危うさにも感じました。

西武ドームライブの件、映画内では「最悪の出来」とメンバーたちが悔やんでいたけど、あれってどう見ても運営側の責任でしょう。精神論でメンバーたちが「我々に気合いが入ってなかった」というのはわかるけど、傍から見る限りではそれでは解決できないような構造的な欠陥で「最悪の出来」だった気がするんですよ。でもそういう事を一切描かずに「メンバーたちの不甲斐なさ故の失敗」として描いている。この時点でボクはこの映画の作り手を信用できないんですよ。結局この映画自体も「意図的に作られた世界」じゃないですか。SFですよ、SF。「戦争映画」って表現はすげえ合ってると思うんだけど、あくまで軍隊直属の従軍カメラマンが撮った戦意高揚の「戦争PR映画」なんだよね。つまりは「場を作ってる人間の手の中のお話」。
「ドキュメンタリー」ってのは誰に対してもカメラが等しく向けられてこそ意味があると思っているんですよ。ドキュメンタリーとして一番最悪なのは作り手が手心を加えて身内にカメラの「牙」を向けない事。で、この映画はまんまとその一番最悪な作りをしています。映っている映像はホントにスゴくて、メンバーたちは全力でAKB48に取り組んでいるという事は伝わりました。しかしながら結局のところこの世界観も、ファンを如何により惹き付けられるかという事について周到な(非人道的な)戦略の元に作られており、作り手側(=運営側)にとって「望まれる観客」を具現化する為に用意された映画でしかなかったです。ぼかあ、そのバンドワゴンに乗ってないんだよ。
メンバーもファンも覚悟して「冥府魔道」を進んでるんですよ。運営側も同じようにその道を進んでいるという事がわかれば、なるほどAKB48ってのは盤石だ、って気にもなったんですけどね。あの世界を創っている人間たちが姿を現さないってのは、逆にAKB48人気がヤバくなったらすぐに我々は手を引く準備があるんだぜ」という事なんじゃないかなあ...と邪推してしまいました。

よくわかってないんだけど「運営側」って触れちゃいけないタブーなんだろうか。いや、そんな事はあるまい。作品内で「チーム4」のメンバーを紹介する時、タキシードのおじさんがいきなり出てきてたぞ。この件に関してはライムスター宇多丸さんがシネマハスラーで「この映画は大人たちを不問にしているけど、それやったら終わる。」とおっしゃってて、あー、AKB48ってのはそれほど脆い世界で成り立っているんだ...って事が逆説的にわかった気分。


メンバーが恋愛禁止なのは何故か?
ライブでメンバーを呼吸困難になるまで動かせるものは何か?
2トップに「私たちにとって、票数は『愛』です。」「私を嫌いでもAKB48を嫌いにならないでください。」と言わせてしまうのは誰か?
少女たちを傷つけてるのは誰か?


「ファン」と「運営側」でしょ。


みんなもうどうせわかってるんでしょ?
わかってる事を描かずにメンバーたちに全てを載せるのは欺瞞。
敢えて言わないのは「ファン」と「運営側」に共犯関係があるからで、それを描いちゃったらこの狂乱の世界はオシマイ、と。
「運営側」にとって「ファン」は大事な顧客だもんね。


この映画で観客側に【「観る」という暴力】まではっきりと伝えてたら...。それはもう日本のドキュメンタリーの超傑作になってたかもね。でも作り手にはそこに興味が無い、というかそこまでの覚悟が無かった。伝えたかったのはただ「AKB48のメンバー超大変」って事だけ。やっぱ不誠実な作り方だと思う。メンバーに対しても不誠実。同じ「仲間」じゃないのかね?


AKB48のメンバーにはホントにただただ幸せになって欲しい。
去年のドキュメンタリーから考えると格段に良くなってた。今年はココまで来た。ボクが観たいと思ってるドキュメンタリーは来年にはちゃんと作られるんじゃないですかね。それくらい期待が持てる作品です。
あと、ホントAKB48のファンじゃなくて良かったかも...。






※本文から漏れた感想

  • アイドルって人前に出れば出るほど綺麗になっていくんだね。どんどん洗練されていく感じが去年,今年と観てわかった。
  • もしドラ」でさんざ聴いた前田敦子さんの「FLOWER」がもう良い曲にしか聴こえないよ!
  • 総選挙のバックステージで警察が警備に回ってたのがびっくり。
  • ケガで欠場、年齢問題...スポーツ選手か!
  • 指原さん北原さんおもしろい。長生きしそう。
  • 大変そうだけど、メンバーたちって幸せだよね。ブラック・スワン感。
  • ファンと運営側をまったく描いてない!って訳では無くて、例えば過呼吸でヘロヘロになってるメンバーに併せてファンがアンコールしてたり、バックステージではスタッフが常にビニール袋持って過呼吸に備えてたりとかあるんだけど、まあそれくらいがホントに公式映画の限界かと。


※どうしても言いたい感想

  • サブタイトルがクソだせえ。「少女たちは傷つきながら、夢を見る。」このサブタイトルのせいで余計な事色々考えた。なんで観客に「こういう風に観てもらいたい!」って事をそのまんまタイトルに付けちゃうかね?

ミッキー・ローク主演「レスラー 〜男は傷つきながら夢を見る〜」ほらダサい。